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関係は
何とも言えない雰囲気が店内に漂っている。どんな関係なんですか? って聞きたい気もしたけれど、店内にいる他のお客さんにも聞かれてしまうし、まだ知り合って間もないナツさんにそんなことを聞ける度胸もない。
私は、「そろそろ仕込みに戻らなきゃ」と席を立って支払いを済ませ店を出た。ナツさんは、「なんか最後変な感じになっちゃってすいません」と謝って来たけど、私には特に関係ない。
お店に帰ってお父さんに「どうだった、隣は?」と聞かれたので、お洒落だねと言った後にコーヒーは意外に面白いかもしれない、とだけ伝えた。
すぐにキッチンに入り、髪を結わってエプロンと三角巾を装着する。
手を洗って夜用の野菜を洗い始めた。
「そういえば、取材は雑誌だって。『女子マガジン』っていう、20代の女性向けの情報誌」
「へえ」
出汁の準備はお父さんが終わらせてくれていたので、あとは魚と肉の下準備だ。
今日はカレイの煮つけと豚の生姜焼きの日。
毎週水曜日は生姜焼きの日で、この日を狙ってやってくる学生さんもいる。
生姜焼きって、人気なんだなあといつも思う。
「そういえば、あの店長さん……ナツさん、クリエイティブディレクターっていう仕事だったらしいよ」
「ふうん、えらい横文字だなあ」
私とお父さんの人生では、決して使ったことのない単語。
一体どんな仕事をしているのかもよく分からない。なんとなくお洒落な仕事なのかなあと思うくらいだ。
仕込みを終えると、開店まであと10分ほどだった。
私は暖簾を外にかける前に、持っている携帯電話でナツさんの名前を調べる。
『クリエイティブディレクター 夏木 ユウタロウ』
インターネットで検索をかけると、出てこないと思ったのにあのナツさんの写真入りのインタビューらしき記事が何万件もヒットしている。
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