コーヒーを愛する全ての人へ

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  *  オープン前のお店の中。今はもうすぐ年度が変わる3月末。  外に出ると桜が満開で、桜の木の近くに花吹雪が舞っている。  ナツさんのお店は、あと1か月ちょっとで3年目に入るところだ。 「ナツさん、今日はネット販売だけでも春色ブレンド200gが30件の受注です」 「うわあ。利津さん、ロースター稼働行けそうですか??」 「やるしかないですね」  私は春色ブレンドの配合を考えて、なるべく効率的に焙煎機を回す計算をする。このブレンドは豆ごとに微妙に焙煎度合いを変えているから、一度に焙煎を終わらせることができない。 「利津さんの春色ブレンド、今年も人気ですね」 「春の華やかさと開放感を意識したんですけど、草餅とか桜餅なんかと相性がいいって言ってもらえます」 「さすがです」  ナツさんはそう言って私を褒めるけれど、それ以上にお店のホームページが素敵なのとパッケージに貼られた桜色ステッカーのお陰なんじゃないかとも思う。  ギフトにぴったりの可愛らしいコーヒーを贈りたい人だっているだろう。春は別れや進展の季節だから。  コーヒーは直感で選ぶことも多いから、ナツさんのクリエイティブセンスとの相性がいい。  いつも思う。  ナツさんはどうして当たり前のように素敵なものをどんどん生み出していくのだろう。ナツさんにかかるとすべてのものに魔法が掛かるみたいだ。  ホームページに載せたナツさんのコーヒームービーが商店街の人たちの目に留まり、ナツさんが携帯電話のカメラで撮影したものなんですよと言った途端に「うちの商店街もああいうのを作ろう」ということになった。  ナツさんは、商店街のムービーならちゃんと観光誘致になっていれば補助金の申請もできるかもと言って、文化庁と経産省の窓口に問い合わせをしている。申請が通らなくても、私たちはやるべきだと思っているけれど。  ナツさんが商店街を今までとは違う方向で盛り上げてくれる日も近い。 「真樹さんの勤める飲食店、コーヒーが評判だって聞きました?」 「祥太くんには一生頭が上がりませんね」  真樹さんは、アパレル販売員から異動になって飲食店の本部で働いている。  最近アパレルショップが飲食店事業をやるケースが増えていて、真樹さんの会社はお洒落な飲食店を次々とオープンさせていた。  そこで提供するコーヒーを仕入れてくれている。  なるべく安い豆を選んでコストを抑え、一般受けするブレンドコーヒー。メニューの構成を見ながら私が作ったものが採用された。 「それにしても、祥太くんがバイヤーさんと友達だなんて、一体どんなところに縁があるか分からないですね」 「祥太、人付き合い良いから……」  祥太の学生時代のバイト仲間らしいけれど、真樹さんの勤めるアパレル会社のバイヤーさんが仕入れを決めてくれた。  これがものすごく売上として大きくて、店舗の売上が霞むくらいの割合になっている。
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