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オープン前のお店の時間。
ナツさんが焼き菓子を焼き、私は豆の焙煎で始まる。特に会話を交わさないことも多いけれど、この時間がすごく好きだ。
その時、扉に下がっているカウベルが鳴った。
「こんにちはー」
入口で声がしたので、まだオープン前ですと言おうと駆け付ける。
そこには商店街のお花屋さん、私にとっては近所の奥さんが大きな花束を持っていた。
「お届け物です。真鍋利津さんあてだって」
「えっ?」
私は驚いて、ピンクと白の花で彩られた華やかなブーケを受け取る。
花束を注文したこともなければ、私がお花をもらう理由もない。
驚いて、花束に刺さっていたカードを手に取る。
「じゃあ、届けましたので」
お花屋さんの奥さんがそう言って嬉しそうにお店を出て行った。
私は戸惑いながらカードに目を落とす。
『いつも、ありがとう』
いつも??
私はカードの裏を見た。
『夏木裕太郎』
「ナツさん??」
驚いてカウンターで仕込み中のナツさんを見ると、全然こっちを見てくれない。
「ちょっとこれ、どういう……」
「利津さん、そういうところありますよね……」
そういうところって、どういうところ??
私は混乱しながら、でも花束をもらったんだからきっとお礼を言わなければいけないんだと焦る。
「あ、ありがとうございます??」
「なんで疑問形……」
ナツさんは苦笑していた。私はナツさんからお花をもらうなんて思わなくて、とりあえずどうしたらいいのかわからない。
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