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「今日も一日、頑張りますよ」
そう言ったナツさんは、やっぱり私の方を見てくれない。
まるで花束のことに触れてほしくなさそうだ。
こんなに豪華なお花をくれて、素っ気ないってどういうこと?
「はい、頑張ります、けど……」
ありがとうと書かれているから、日頃の感謝ってことなのかな。
お花をもらったことなんてなかったから、やっぱり嬉しい。
ブーケをほどいて、花瓶の代わりになりそうな大きさの缶に水を入れる。
「え? まさかそれにお花入れるんですか?」
「あ、ダメですか?」
「……それ、耐水性も怪しいし倒れやすそうなんで、せめてグラスとか空き瓶とか……」
ナツさんが思い切り呆れている。まさか、こんなやつに花を渡すんじゃなかったとか後悔してる?
ナツさんはキッチンの戸棚を開けて空き瓶を出すと、その中に水を入れ、私の持っていた缶と花を奪い取るようにした。
ナツさんが空き瓶に活けた春の花束。確かに、安定もしているしサイズ感もちょうどいい。もらった花すらちゃんと飾れないなんて、我ながらなんて情けないんだろう。
焙煎とブレンドを任されたからといっても、私はそれ以外でナツさんの役に立てていることはなかった。私たちは、シンクの前で並んで立っている。
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