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「これからもよろしくお願いします」
ナツさんは、花の入った瓶をすっと私の前にスライドさせ、やっぱり私の方を見ずに小さな声で言った。
「いえ、いつも楽しくお仕事していますし」
私たちは、コーヒーの魅力を伝えるために働いている。
人生の酸いも苦いも、乗り越え切れてはいないけれど。
「コーヒーが好きですから」
きっと、今日より明日、私は毎日コーヒーが好きになる。
「あの……。利津さんが好きなのはコーヒーだけですか?」
「えっ……? もしかして分かってて聞いてます……?」
「いや、僕の自惚れでなければいいなと」
私は飾ろうとして持ちあげた花に顔を埋める。顔が熱くて仕方がない。
目の前のお花から、コーヒーでも嗅いだことのある系統の香りがした。
コーヒーチェリーは、いい香りのする花を咲かすのだろうか。
「利津さん、あの、僕は……」
「はい……」
「もう、利津さんがいないとダメかもしれません」
ナツさんが、今まで見たこともないような顔をしている。
固まっていて、ガチガチで、目線はこっちを見ているはずなのに目が合わない……。
この人でも緊張することがあるんだなと、「はい」を言いながら吹き出してしまった。
私が笑っていたらナツさんは悔しそうな表情を浮かべてから、「利津さんのその顔が好きです」とこっちを見て言った。
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