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その昔、ゼウスという男がいた。ゼウスには想像する力があり、それを現実にする力があった。そんな彼の事を人は神と呼んだ。
ゼウスが死んだ。彼は自分が死ぬ姿を想像しなかったが、生き続ける姿も想像しなかった。だから、死んだのだ。
ゼウスがどのように死んでしまったのか、誰も知らない。遺体さえ誰も見ていない。だが、人々はゼウスが死んだ事を知っていた。それはゼウスが生前、話していたからだ。
「わたしが死んだら、空の月が消えるだろう」
空から月が消えた夜。多くの者がゼウスが死んだ事を知った。
数千年後。
ロジョブはあくびを我慢した。それには理由がある。
「ロジョブ、私の授業は退屈?」
数学教師のイリアナは黒板から振り返ると、ロジョブに厳しい目を向けた。
ロジョブは我慢したあくびを飲み込みながら、立ち上がった。
「…いいえ、楽しいです」
そうは見えない。ロジョブの顔はひきつっている。イリアナが怖いのだろう。
「なら、あくびなんかしたら駄目よ。飲み込んだみたいだけどね」
イリアナはそう言うと、再び顔を黒板に向けた。
ロジョブは額に浮かぶ汗を拭いながら、椅子に座った。
「危なかったわね」
隣の席のユリイが、ロジョブの脇腹をつつきながら囁くように言った。ユリイは笑顔を浮かべている。お調子者のユリイは更にお喋りを続けようとした。
「ユリイ、授業中は静かにしなさい」
イリアナは振り返る事なく注意した。
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