フルムーン

6/9
前へ
/9ページ
次へ
「…んせい、先生」  イリアナの耳にシビリの呼び掛ける声が届いた。精神が体内に戻ったイリアナの瞼がゆっくりと開いた。 「…シビリ?」  精神は体内に戻ったばかり。まだ覚醒しきってはいない。  一秒…五秒…十秒。次第に意識は覚醒していく。そして、イリアナは直ぐに知った。これから起こりうる可能性がある未来を。 「みんな、逃げて!また、来る!」  イリアナが叫んだ。  衝撃が走った。辺りが暗闇になった。だが、暗闇になっているのは辺りだけだ。みんなは、透明なドームの中にいる。ユリイの力だ。イリアナはそれに直ぐに気付いた。 「ユリイ、絶対に破らせないで!その闇に触れたら、私達は消えてしまう!」  イリアナはそう叫ぶと、シビリに視線を向けた。 「シビリ、私達をまた移動させて!」  だが、シビリの顔が曇った。 「…先生…全員を連れ去る力は、もう残ってないよ」  イリアナは息を飲んだ。だが、何とかしないと、全員消えてしまう。 「…一人ずつなら、行ける?」  イリアナは心の中で願った。だが、シビリが答える前に知ってしまった。シビリは後、数十分は誰一人連れ去る事ができない。力を使い過ぎたのだ。 「…力を使い過ぎた。数十分は力を使えないよ」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加