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Ⅶ
タクシーを拾い、アルバに指定されたホテルに向かうよう依頼した。後部座席に乗って、車窓を眺める。
大輔は追いかけてすら来なかった。今からたっぷり酒を飲んで、寝て、明日になれば麗良のことなんて忘れるのだろう。
笑える、と、麗良は涙で濡れた唇で、笑った。
外資系のホテル前に到着すると、乗車賃を払い、降車した。ボーイが控えるエントランスをくぐり、シャンデリアが吊るされ、赤絨毯が敷かれた、広大なロビーに足を踏み入れる。
どこにいればいいのか分からないので、ロビーのソファの一つに腰を下ろした。座り心地のよいソファに座って暫くすると、突然背後から声をかけられた。
「ちゃんと来たな」
振り返ると、アルバが立っていた。麗良の顔を見たアルバは、わずかに気遣わしげな目をした。
「指示は守ったみたいだな」
でも、と麗良は尚も抵抗する。
「まだ行くとは言ってないからね」
「強情なことで」
アルバは面倒そうに零して、ついてくるよう目線で言う。麗良は立ち上がり、アルバの後をついて、エレベーターに乗り込んだ。
アルバが二十三階のボタンを押す。エレベーターは音もなく上昇を始めた。
壁に凭れて、ぼんやりと大輔との思い出を辿った。ここ近年は退屈な日々だったが、出会った頃は愉しかった。あの頃の大輔は優しく、確かに魅力的に見えたのだ。
二十三階に到着し、ドアが開く。麗良は黙ってアルバの後をついていった。
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