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Ⅷ
夜半、眠っていた麗良は眼を覚ました。隣を見る。ベッドには黒髪から紅髪に戻ったアルバが、シャツを着たまま寝ていた。髪は、就職のために黒く染めていたらしい。彼の紅髪は赤茶ではなく、深みのある紅だった。しかし元々の髪色が深紅というのも、よく分からない。彼が言う、俺達の世界というのは、どんなところなのだろう。俄かに、好奇心がわき上がってきていた。
パジャマ姿の麗良はベッドから起き上がり、足を下ろす。冷蔵庫へ向かう。ミネラルウォーターを取り出すと、水を飲んだ。それから窓辺に近寄り、夜景を望む。
この夜景も、最初見た時は感動もするだろうが、毎日見ていれば、当然のことながら飽きてくる。それに、この光の中に、どれほど不幸な関係があるのだろうと考えると、何が美しいのか分からない。
麗良は身を反転させる。すると、マットレスに頬杖をついて、こちらを見ていたアルバと目が合った。
「気が変わった?」
「まだ」
「そ。ま、しっかり悩めよ」
あのさ、と夜景に視線を向けてから問う。
「シェルメルって、どんなとこ」
「飯とか服装は、あんま変わらないかな。家の造りも、ここと似たような感じ。燃料は違うけど、車もバイクもある。でも、パソコンみたいな電子機器はない」
「みんな、どんなことしてるの」
「必死に生きてるよ」
アルバの口調は、妙に重々しかった。
麗良はアルバを振り返る。アルバは「どうしたの」と麗良を見上げた。
「あんたも、必死に生きてるの」
アルバは驚いたように言葉を切り、麗良から視線を外した。
「……たぶんね」
神妙になったアルバに、それ以上質問できなかった。
麗良は、自分のベッドに戻り、ヘッドボードに背を持たせて、テレビをつけた。ニュースにチャンネルを合わせる。
幼児虐待のニュースだった。麗良は、ぼんやりとそれを眺める。
過去の記憶がフラッシュバックした。意味も分からず父親に殴られ続けた、幼い日々を。
その時の感情が鮮明に蘇ってきて、耐え難くなり、ぎゅっと目を瞑る。
息が苦しくなり、首許を押さえた。
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