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「そんなに自分のこと(いじ)めなくてもいいだろ」  すぐ傍で声がして、麗良ははっとした。アルバが同じベッドに上がって来て、隣に座ろうとしていた。 「何してんのよ。近寄らないで」 「いいから、そっち詰めてよ」  苦しくなった心臓が、今度は大きく拍動を始める。  それを押し隠して、麗良は腰を滑らせる。アルバは体を密着させて腰を下ろし、麗良の肩に腕を回した。 「べたべたしないで」  嫌がるように肩を揺らすが、緊張で声が上擦る。アルバはからかうように麗良を見た。 「説得力ねぇな」 「ほんとに近寄らないで」 「なんで。心配してんのに」 「しなくていい。どうせ、あんたには分からない」  アルバは、麗良の横顔を見つめる。あまりにも、じっと見つめるので、おずおずと視線を向けた。麗良を見つめる深いブラウンの瞳が、ひどく美しい。その瞳が、麗良の胸に向いた。 「いつからしてないの」 「ほっといてくれる」  麗良はアルバの肩を押し戻す。 「抱いてあげるよ」 「それと引き換えに同意しろとか言われそうだから、いい」 「いつもなら言うけど、麗良は違うよ」  え、と麗良はアルバを見る。しかしアルバがにやつくので、麗良は(だま)されたことに気づく。なんでこうも騙されやすいのか。本当に嫌になる。 「この世に、まともな人間なんていないんだ。きっと」 「いるかもよ。あっちになら」 「あんた見てる限り、そうとは思えないけど」 「俺はね。けど俺以外のことは、行ってみないことには分からないよね」  なぜ、アルバが自分をやめておけと言うのか気になった。しかし訊いてはいけない気がして、訊けなかった。考えに(ふけ)っていると、アルバが顔を近づけてきた。 「ま、とりあえず、しようか」 「とりあえずって……。あのさ、スカウトした全員と、こういうことしてるわけ?」 「望む人だけ」 「タイプじゃなくても?」 「仕事だから」 「一緒にされたくないから、いい」 「一緒にしてないって。なに、特別じゃないと嫌なの」 「この前の、あんたの言葉、刺さったから」 「あんま気にすんなよ」 「無理。そういうの、すごい気にするタイプだから」 「めんどくせぇ女。でも、ま、あんたやっぱり向いてるよ」  ぐらりと気持ちが傾く。この繊細な気質が面倒であることは自覚しているが、肯定されたことはなかったから。 「私の気質が、役に立つってこと?」 「ああ」 「私が必要?」 「そう」 「それ、本心?」 「本心」 「あっち行った途端、見捨てたりしない?」  アルバは一瞬言葉に詰まり、それから、にっと笑った。 「心配すんなよ」 「ちょっと間があったよね」 「そう?」 「あった。なにか隠してない?」 「ないない」 「嘘、ちゃんと話してよ。私の人生かかってるんだから」 「いいからさ、少し黙ろうぜ」  アルバは、強引に麗良の唇を奪った。そのままベッドに組み伏せられ、衣類を剥ぎ取られる。露わになった体に、筋肉の張った硬い肢体が重なり、(まさぐ)られた。  話を続ける気は、失せていた。  重なり合った彼の背中に手を回した時、指先に硬くなった皮膚の凹凸(おうとつ)を感じた。傷痕だろうかと思って、問いたげにアルバを見つめる。彼は気づいたはずだが、笑んだだけで何も教えてくれなかった。  やがて何年も遠ざかっていた、快感と苦痛が綯交(ないま)ぜになった感覚を味わう。まざり合う吐息と喘ぎ声に、麗良は恍惚として、涙を流した。
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