5人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなに自分のこと虐めなくてもいいだろ」
すぐ傍で声がして、麗良ははっとした。アルバが同じベッドに上がって来て、隣に座ろうとしていた。
「何してんのよ。近寄らないで」
「いいから、そっち詰めてよ」
苦しくなった心臓が、今度は大きく拍動を始める。
それを押し隠して、麗良は腰を滑らせる。アルバは体を密着させて腰を下ろし、麗良の肩に腕を回した。
「べたべたしないで」
嫌がるように肩を揺らすが、緊張で声が上擦る。アルバはからかうように麗良を見た。
「説得力ねぇな」
「ほんとに近寄らないで」
「なんで。心配してんのに」
「しなくていい。どうせ、あんたには分からない」
アルバは、麗良の横顔を見つめる。あまりにも、じっと見つめるので、おずおずと視線を向けた。麗良を見つめる深いブラウンの瞳が、ひどく美しい。その瞳が、麗良の胸に向いた。
「いつからしてないの」
「ほっといてくれる」
麗良はアルバの肩を押し戻す。
「抱いてあげるよ」
「それと引き換えに同意しろとか言われそうだから、いい」
「いつもなら言うけど、麗良は違うよ」
え、と麗良はアルバを見る。しかしアルバがにやつくので、麗良は騙されたことに気づく。なんでこうも騙されやすいのか。本当に嫌になる。
「この世に、まともな人間なんていないんだ。きっと」
「いるかもよ。あっちになら」
「あんた見てる限り、そうとは思えないけど」
「俺はね。けど俺以外のことは、行ってみないことには分からないよね」
なぜ、アルバが自分をやめておけと言うのか気になった。しかし訊いてはいけない気がして、訊けなかった。考えに耽っていると、アルバが顔を近づけてきた。
「ま、とりあえず、しようか」
「とりあえずって……。あのさ、スカウトした全員と、こういうことしてるわけ?」
「望む人だけ」
「タイプじゃなくても?」
「仕事だから」
「一緒にされたくないから、いい」
「一緒にしてないって。なに、特別じゃないと嫌なの」
「この前の、あんたの言葉、刺さったから」
「あんま気にすんなよ」
「無理。そういうの、すごい気にするタイプだから」
「めんどくせぇ女。でも、ま、あんたやっぱり向いてるよ」
ぐらりと気持ちが傾く。この繊細な気質が面倒であることは自覚しているが、肯定されたことはなかったから。
「私の気質が、役に立つってこと?」
「ああ」
「私が必要?」
「そう」
「それ、本心?」
「本心」
「あっち行った途端、見捨てたりしない?」
アルバは一瞬言葉に詰まり、それから、にっと笑った。
「心配すんなよ」
「ちょっと間があったよね」
「そう?」
「あった。なにか隠してない?」
「ないない」
「嘘、ちゃんと話してよ。私の人生かかってるんだから」
「いいからさ、少し黙ろうぜ」
アルバは、強引に麗良の唇を奪った。そのままベッドに組み伏せられ、衣類を剥ぎ取られる。露わになった体に、筋肉の張った硬い肢体が重なり、弄られた。
話を続ける気は、失せていた。
重なり合った彼の背中に手を回した時、指先に硬くなった皮膚の凹凸を感じた。傷痕だろうかと思って、問いたげにアルバを見つめる。彼は気づいたはずだが、笑んだだけで何も教えてくれなかった。
やがて何年も遠ざかっていた、快感と苦痛が綯交ぜになった感覚を味わう。まざり合う吐息と喘ぎ声に、麗良は恍惚として、涙を流した。
最初のコメントを投稿しよう!