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 翌日、アルバより早く起きた麗良は、アルバの腕からそっと抜け出して、シャワーを浴びた。  温かいシャワーを頭から浴びながら、じっと目を閉じて考えていた。  もしも、契約したら―――。  アルバは、帰りたければ、何とかすると言った。なら、一度行ってみてもいい。どちらにしろ仕事もなければ、家族がいたこともない。  シェルメル行きは、社会からの追放を意味するのだろうか。でも、別にいいという気がした。この世界に愛着なんて、全くない。だからアルバが引き寄せられたというのは、分かる気がする。  瞬間的に、昨夜の出来事が脳裏をよぎった。  あれは何の感情も絡まない、単なる行為だ。目的などなく、ただ体を絡ませただけ。  でも、温かかった。その温もりを逃したくなくて、アルバの体に(すが)りついた。そして彼は意外にも、邪険にしなかった。  麗良はバスルームを出て、髪を拭いて、バスローブを身につける。化粧台の前に立ち、鏡に映る自分の顔を見つめた。  麗良。(うるわ)しく、()い。  けど、麗しくもなく、良くもない、自分の顔。  名前負けだと、いつも嘲笑(ちょうしょう)された。この名をつけた親を、心底呪ってきた。  この世界を出たら、新しい名前を得られるだろうか。  もっとマシな仕事に就けるだろうか。  世界を、愛せるだろうか。  一度でいい。今生きているこの世界は最高だと、言ってみたい。
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