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Ⅺ
廊下に出たアルバは、ドアに寄りかかる。耳に当てたスマホから、何度か呼び出し音が鳴った後、低い声が出た。
『鷺草』
「俺。レイラ、落としたわ。お前の方は」
『散々追い詰めて、金見せびらかして、なんとかな。お前は、どうやって落としたんだ』
「ん?まあ、色々と」
『お前、まさか寝たんじゃないだろうな?』
「だったら、なんだよ」
『感情移入するから、やめろと言ってるだろう』
「うるせぇな、いいだろ。———まあ、でさ、こっちは今日中にあっちに移動するから」
『分かった。シール研究所で落ち合おう』
「ああ」
アルバは電話を切る。それから額を押さえ、深く溜息を吐いた。
懐からクーラを取り出す。それに手を置いて契約を交わした、過去の人間達を思い出す。
男も女もいた。目をつけたら、彼らが欲しいものを与えてやり、契約を交わさせる。それが仕事だ。
同時に、耳の奥で呻る断末魔。
彼らは、シェルメルで再びアルバと会った時、どう思っただろう。
知る由もないし、知りたくもなかった。
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