1/1
前へ
/25ページ
次へ

 廊下に出たアルバは、ドアに寄りかかる。耳に当てたスマホから、何度か呼び出し音が鳴った後、低い声が出た。 『鷺草(さぎくさ)』 「俺。レイラ、落としたわ。お前の方は」 『散々追い詰めて、金見せびらかして、なんとかな。お前は、どうやって落としたんだ』 「ん?まあ、色々と」 『お前、まさか寝たんじゃないだろうな?』 「だったら、なんだよ」 『感情移入するから、やめろと言ってるだろう』 「うるせぇな、いいだろ。———まあ、でさ、こっちは今日中にあっちに移動するから」 『分かった。シール研究所で落ち合おう』 「ああ」  アルバは電話を切る。それから額を押さえ、深く溜息を吐いた。  懐からクーラを取り出す。それに手を置いて契約を交わした、過去の人間達を思い出す。  男も女もいた。目をつけたら、彼らが欲しいものを与えてやり、契約を交わさせる。それが仕事だ。  同時に、耳の奥で呻る断末魔。  彼らは、シェルメルで再びアルバと会った時、どう思っただろう。  知る由もないし、知りたくもなかった。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加