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 麗良はアルバと向き合い、言われるがまま、球体に手を乗せた。アルバが、朗々と唱える。 「フェーレ・ティ・シス・ノメーサ・ポリティエス・オリキザシ・ゼ・ナーシ・ディスティ・ディスコリウス」  麗良はぽかんとして、アルバを見た。アルバは「イーラ」と言えと、半ば命令的に言う。どんな意味か訊きたかったが、そんな余裕はないという雰囲気に押されて訊けなかった。麗良は、ごくりと唾を呑み下し、緊張した声で「イーラ」と言った。  直後、球体が白く輝いた。すぐに光は球体の奥へ吸い込まれていき、元の透明状態に戻る。 「はい、終わり」 「もう?」 「うん」と応えたアルバの態度は、ひどくそっけない。 「今のって、どういう意味?」 「移籍しますかって確認」 「私、あっちの言葉分からないんじゃない?」 「大丈夫、大丈夫」 「本当に?」と訊くが、アルバはその質問を黙殺した。 「これからどうするの?」 「シェルメルに移動して、シール研究所に行く」 「研究所?なんの研究してるの?」 「魔法の研究」 「え、魔法?冗談?」 「ここに来て冗談なんて言わないよ。あとは、行ったら分かるから」 「待ってよ、そこで何するの」 「シェルメルのために働く準備をする。そこで、あんたの能力を見極めて、どんなことをするか決めんの」 「たとえば、どんな仕事があるの」 「何もなきゃ、研究所で働くかな。特別な適性があれば、別だけど」 「別って?例えば?」 「どっちにしろ、シェルメルのために働くのは変わらない。心配すんなって。大丈夫だから」  アルバは質問を遮るように、スマホを耳に当てる。 「俺、アルバ。今からそっち行くから、開けて」  すぐに電話を切り、麗良を振り返る。 「こっち来て」  バルコニーに出たアルバの後をついていく。  アルバは虚空を指さして、 「じゃ、あそこ目掛けて飛んで」  と言った。麗良はぽかんとする。指さした先には、なにかがあるようには見えない。 「いや、無理、無理。殺す気?」 「死なねぇから、大丈夫だって」 「無理、怖い」 「飛ばないと、あっち行けないよ」  決心のつかない麗良は、押し黙ったまま立ち尽くす。 「早く」とアルバが急かす。 「心の準備が必要なの」 「じゃあ、俺が連れてってやるから、目瞑っといて」  眉を顰めてアルバを見る。 「それができるなら、最初から言ってくれない」 「あんまり、したくないんだよ」  アルバはかったるそうに言うと、麗良の頭に手を置いた。大きな筋張った手は、温かかった。 「目瞑って」  麗良は急に不安になって、もう一度、アルバに訊ねた。 「あっちに行っても、見捨てたりしないよね?」  アルバは妙に生真面目な顔で麗良を見つめる。 「……あっちで会おう」 「約束ね?」 「ああ」と言った顔は、なぜか悲しそうだった。 「信じるからね。裏切らないで」  それは、自らの切実な心の声に思えた。もう誰かに裏切られたくない、という。 「目を瞑って」  麗良は目を閉じる。そして、好きなれなかった世界に、心の中でさよならを言った。 <END> ©2022 Shouka All Rights Reserved.
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