ex11.失われた時間を思いながら

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ex11.失われた時間を思いながら

 今日は言うまでもなくバレンタインデー。この日にふさわしい曲は"My Funny Valentine"ですね。王道ですが。  これは女性がその名もヴァレンタインなる男性へ愛を呼びかける内容。最後に、あなたがいてくれるなら毎日がバレンタインデーみたいに輝くと歌います。  この"My Funny Valentine"、いろんな歌手が歌っていますが、いちばんに思い浮かべるのは、やっぱりチェット・ベイカーが歌っているものですね。アルバム"Chet Baker Sings"に入っている、彼の代表曲と言えるもの。  チェット・ベイカーの歌声は青春そのものとよく言われますね。「青春」という言葉さえももう古い言葉ですが。  彼の歌声には、青春時代特有の未熟さや青くささみたいなものがぷんぷんと漂っています。うわあ! 青いなぁ! みたいな。  わたしはそんな彼の歌声にどことなく苦手意識を持っていました。なんというか、彼の歌声から伝わる未熟さや青くささに、痛々しささえも感じるから、みたいな苦手意識です。  しかし、ある程度年齢を重ねて聴くと、なんとなく懐かしささえも感じます。  つまりですね、さすがにもう青春時代とは言えないよな、という年齢になり、改めてチェット・ベイカーの歌声を聴くと、その未熟さや青くささは、かつてのわたしが(そして、誰もが)抱えていたものなんだよなあ、みたいな懐かしさが生まれるわけですよ。  それは青春の思い出が蘇るというわけではないんですが、"My Funny Valentine"に歌われるように、誰かを熱烈に愛して、「あなたがいれば毎日がバレンタインデーだ!」と無邪気に言うための「何か」はもう、わたしの中から失われていると気づくのですね。  さて、改めましてバレンタインデー。青春(とっくの昔に死語だけど)真っ盛りの人は、青い春を謳歌しましょう。  とっくの昔に青春が終わったという人は、"My Funny Valentine"を聴いて、失われた時間を思いながら、チョコの糖分やカロリーを気にしましょう。 ※この『ひつじのはなし』exは、2月14日にツイッターに書いたものを再構成したものです。
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