22.銀の裏地

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22.銀の裏地

 2月までの底の抜けたような寒さも3月に入って一転、昼間は暖かく穏やかな日々が続いています。さすがに季節の変わり目なので、まっすぐ暖かくなるというわけでもなく、三寒四温というようにときどき寒くもなりますが、2月までの落ち込みほどではない。  イギリスの有名なことわざに、"March comes in like a lion, and goes out like a lamp."というものがあります。  「3月はライオンのようにやってきて、子羊のように去っていく」との意味。つまりは、ライオンのような荒々しい天気で始まり、子羊のような穏やかな天気で終わるように、冬から春にかけての季節の変わり目では、天候が変わりやすいことを示したもの。  わたしのまわりではまだライオン的な春の嵐は来ていませんが、たしかに言われてみればそんな感じがします。まあ、イギリスと日本じゃ気候もまた少し違うかもしれないけど。  しかし、今年はそのことわざに別の意味を重ねて考えてしまう。  2022年の春は、2年も続いたままの世界的パンデミックに加えて、戦争で幕を開けました。まさにライオンがやってきて荒々しく世界をかき乱していますね。  どちらもどこか遠くにあるものではなく、われわれの日常に暗く忍び寄ってきます。むき出しの暴力がテレビやネットから容赦なくあふれて、やっぱり心が寒々としてしまうのは否めない。  "Every cloud has s silver lining."という、これも有名なイギリスのことわざ。  意味は「どの雲にも銀の裏地がついている」、つまりは地上から見ればどんなに激しい雨雲でも、その裏地、つまり太陽のある空から見れば銀色の輝くような世界が広がっている、みたいな意味。  パンデミックや戦争の裏側に隠された穏やかな日常を過ごしながら、それらが子羊のようにおとなしく去ってくれるのを待つしかないですね。
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