17.どんどん歩いていけば

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17.どんどん歩いていけば

 前回、ライターズブロックかもしれないと書きました。それから少しずつ、むりやりにでも何か書こうとジタバタしていた。  短い小説もひとつ書いて(まだ完成してないけど)、それにこのひつじのはなしの原稿も今まさに書いている。リハビリ的に。  さて、『不思議の国のアリス』にチェシャ猫が出てきますね。木の枝の上からアリスと会話を交わしたあと、最後に三日月のような笑みを残して消えた、しましま模様の猫です。  アリスが道をたずねると、「どこへ行きたいかってこと次第だね」と答え、アリスが「どこだってかまわない」と続けると、「なら、どっちへ行ったっていいじゃないか」と言います。それは「どんどん歩いていけば、どこかへは着く」から。  ライターズブロック的な状態で、その言葉の意味するところを考えると、ひとまず手を動かし続けることに、なんらかの意味を見出せそうにも感じますね。とにかく書き続けていれば、ひとまず何かを書き上げられるかもしれない、みたいに思えるわけですよ。  もちろん、小説を含む文章を書くときに、「どこへ行きたいかってこと」自体をはじめから決めていれば、こんな苦労はしなくてもいいんだけど、文章ってけっきょく思いどおりにはまっすぐ進めないものでもある。アリスのたどった道のりのように。  それにそもそも「どこかへ行きたい」のかすら、書き出すときには決めていない、わからない場合もあるし、文章には書いている途中でどんどん目的地が変わる性質がある。  だからむしろ逆に、そのときそのときの「どこだってかまわない」というライブ感覚を持って、「どんどん歩いていけば、どこかへは着く」性質かもしれません。  ところで『アリス』は児童文学的な教訓とは対極にあるものです。そこに意味を見出す行為自体がナンセンスと言えばナンセンスだ。
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