3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふむ。剣気が強くなったのぅ…… 」
おじいさんも、桃太郎と同じように半身を切って、身をかがめました。
「桃太郎や。空気を断つのじゃ。人を斬ると思うな…… 『虚空を斬り、手応えあれば極意なり』じゃぞ」
そう言いながら凄まじい気迫を込め、木刀の柄に右手をかけました。
「木刀じゃから、真剣のような閃きは出ないがのう。居合抜きをやってみなさい…… 」
「おじいさん。僕も日々精進して、成長したところをお見せしましょう…… 」
桃太郎は汚名挽回するべく、ありったけの気合いを込めて、剣を抜くタイミングを測っていました。
「ふう…… この態勢は膝に響くのぅ…… 」
おじいさんは、一瞬自分の足を見てしまいました。
その一瞬を、アドレナリンがいっぱい出ている桃太郎は、見逃しませんでした。
ちいええぇい!!
ちょっと情けない声で気合いを掛けると同時に、右足を大きく踏み出し、木刀をめいっぱい振り抜きました。
「ほほっ! ほ~い! 」
余裕でかわしたおじいさんは、木刀を振り抜いて、ガラ空きになった桃太郎のどてっ腹へ、抜き放ちました。
ドカッ!!
容赦ない一撃が桃太郎の腹に食い込みました。
「ぐええぇっ!! 」
胃液を吐いて崩れ落ちた桃太郎を、おじいさんは見下ろして言いました。
「桃太郎や。いつもひたむきに稽古しているのに強くならないのう。それはのう…… 1人で稽古していいるからじゃ。強くなりたければ、強者と共に修行しなさい。すでに剣術に明るい知人に文を送った。今日あたり来ると思うから、共に修行しなさい」
「はい。ありがとうございます。おじいさん」
腹の痛みに耐えながら、桃太郎はまた上下振りを始めました。
その日の昼頃、美しい娘が桃太郎を訪ねてきました。
「ごめんください…… 桃太郎さんはいらっしゃいますか? 」
肌は透き通る様に白く、白い着物に身を包み、髪と眸は青く光っています。
この世のものとは思えないほど、輝いていて、まるで天から舞い降りたような神々しさでした。
「あ…… あの…… 桃太郎は僕です。すみません」
一目見ただけで気後れした桃太郎は、なぜか謝るべきだと思ってしまいました。
「私は雪子と申します。桃太郎さんと、一緒に剣術の稽古をするようにとの、一刀斎様からの言いつけで参りました」
最初のコメントを投稿しよう!