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「ええっ! 女性の方だったのですね。しかも、こんなにお美しい…… 」
すると、おじいさんが家の裏からやってきました。
「おお。雪ちゃん。遠いところ済まなかったのぅ。この桃太郎に、稽古をつけてやってくれんか。ワシがやると、勢い余って殺してしまいかねないのでのぅ…… かっかっか! 」
おじいさんは明るく高らかに笑いながら、怖いことを言いました。
「鬼神のごとく強く厳しい、一刀斎さまの『殺してしまう』は、まことの言葉にしか聞こえません。聞けば、桃太郎さんは将来大きな任務を控えた大切なお方。世のため人のため、私が微力を尽くし、立派な武士にして差し上げましょう」
すると、おばあさんもやって来て、言いました。
「桃太郎や。イイ女じゃろう…… ひひひ…… お前の嫁にどうじゃ」
純情な桃太郎は、顔を赤くして俯いてしまいました。
「おおっ。顔に出たのぅ。おばあさんや。ついでに祝言を上げてしまおうかのぅ」
「ええっ。私は…… 」
雪子は何か言おうとしましたが、おじいさんと、おばあさんの勢いに負けてしまいました。
話はとんとん拍子に進み、麓の村中に言いふらされてしまい、村人たちがお祝いの品を持って押しかけてきました。
「いやあ。桃ちゃんもいよいよ所帯持ちだなぁ。こ~んなに小さかった童が、いつのまにかなぁ」
「めでたい! 飲めや歌えや! 」
ドンチャン! ドンチャン!
にわかに始まった宴会は、夜遅くまで続きました。
「めでたいのぅ…… ところで、桃太郎。雪子。子どもは何人にするんじゃ? 」
酒が入ったおじいさんは、結婚したばかりの2人にストレートに聞いてきました。
「そうだえ。老い先短い年寄りに、早く孫の顔を拝ませておくれ…… 」
おばあさんも、満面の笑みで2人に聞いて来るのでした。
「ははは…… 」
夫婦になった2人は笑い合って、ごまかしました。
日付が変わるころ、宴会が終わりました。
「桃ちゃん。雪ちゃん。幸せにな。麓の村にも遊びに来ておくれ」
「村を襲いにくる鬼をやっつけておくれ」
「ここに来られない子どもや年寄りに、紹介させておくれ」
三々五々となった村人たちは帰って行きました。
「雪ちゃん…… さっき鬼をやっつけるって、誰か言ってなかったかな…… 」
「気のせいよ」
翌朝、日の出前に起きた2人は、早速山に籠って剣術の稽古を始めました。
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