【ショート小説】桃太郎と雪女

3/8
前へ
/8ページ
次へ
「ええっ! 女性の方だったのですね。しかも、こんなにお美しい…… 」  すると、おじいさんが家の裏からやってきました。 「おお。雪ちゃん。遠いところ済まなかったのぅ。この桃太郎に、稽古をつけてやってくれんか。ワシがやると、勢い余って殺してしまいかねないのでのぅ…… かっかっか! 」  おじいさんは明るく高らかに笑いながら、怖いことを言いました。 「鬼神のごとく強く厳しい、一刀斎さまの『殺してしまう』は、まことの言葉にしか聞こえません。聞けば、桃太郎さんは将来大きな任務を控えた大切なお方。世のため人のため、私が微力を尽くし、立派な武士にして差し上げましょう」  すると、おばあさんもやって来て、言いました。 「桃太郎や。イイ女じゃろう…… ひひひ…… お前の嫁にどうじゃ」  純情な桃太郎は、顔を赤くして俯いてしまいました。 「おおっ。顔に出たのぅ。おばあさんや。ついでに祝言を上げてしまおうかのぅ」 「ええっ。私は…… 」  雪子は何か言おうとしましたが、おじいさんと、おばあさんの勢いに負けてしまいました。  話はとんとん拍子に進み、麓の村中に言いふらされてしまい、村人たちがお祝いの品を持って押しかけてきました。 「いやあ。桃ちゃんもいよいよ所帯持ちだなぁ。こ~んなに小さかった童が、いつのまにかなぁ」 「めでたい! 飲めや歌えや! 」  ドンチャン! ドンチャン!  にわかに始まった宴会は、夜遅くまで続きました。 「めでたいのぅ…… ところで、桃太郎。雪子。子どもは何人にするんじゃ? 」  酒が入ったおじいさんは、結婚したばかりの2人にストレートに聞いてきました。 「そうだえ。老い先短い年寄りに、早く孫の顔を拝ませておくれ…… 」  おばあさんも、満面の笑みで2人に聞いて来るのでした。 「ははは…… 」  夫婦になった2人は笑い合って、ごまかしました。  日付が変わるころ、宴会が終わりました。 「桃ちゃん。雪ちゃん。幸せにな。麓の村にも遊びに来ておくれ」 「村を襲いにくる鬼をやっつけておくれ」 「ここに来られない子どもや年寄りに、紹介させておくれ」  三々五々となった村人たちは帰って行きました。 「雪ちゃん…… さっき鬼をやっつけるって、誰か言ってなかったかな…… 」 「気のせいよ」  翌朝、日の出前に起きた2人は、早速山に籠って剣術の稽古を始めました。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加