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「桃さん。まずは構えてみてください」
「はい。雪ちゃん」
木刀を持って、青眼に構えました。
「ああっ。こんなに強く握りしめてはダメです。小指と薬指でぎゅっと締めたら、他の指は軽く添えるようにします」
雪子の指導は、具体的で理解しやすいものでした。
妻であり、良い師でもある雪子を得た桃太郎は、今まで努力しても開花しなかった才能を存分に見せ、めきめき頭角を表わしていきました。
「いいよ。すごくいい。雪ちゃんの指導は的確で、どんどん強くなるのがわかるよ。おじいさんの言うことは、良くわかんなくってさ…… 」
こんな日々が2年続き、その間に2人は子どもを授かりました。
「ああ。幸せだなあ…… 」
桃太郎は、家族を得て充実した気分で毎日を過ごしていました。
そんなある日。
麓の村の村長がおじいさんを訪ねてきました。
「一刀斎様。村は度々鬼の襲撃を受け、財産は皆持って行かれてしまいました。どうか。どうかお力添えを。村を救ってくださらんか」
すがりつくようにして、お願いする村長を冷たい眼で見下すように、おじいさんは言いました。
「一刀斎と呼ぶんじゃないよ。ワシはただのおじいさんじゃ。鬼と戦うなんで、気軽に言うけど、ワシに命を捨てろと言っておるんじゃぞ。人に死ねという権利が村長にはあるとでも言うのか! 」
おじいさんは一喝して、村長を外に叩き出しました。
主張は正当なもので、村人がいかに困っているからと言って、腕の立つ人にお土産もなしに、お願いするのは愚の骨頂でした。
「はっ! そうか。手ぶらではいかんかった! 」
村長は村へ引き返すと、若い者にリヤカー一杯の財宝を持って来させました。
「一刀斎様。先ほどは気付きませんで、大変失礼いたしました。これをお納めください…… 」
「ふむ。さすが村長。村人に内緒で、こんなに隠し持っていたのじゃな。そちも悪よのぅ。考えてやらんでもないぞ…… 」
おじいさんは態度を一変させました。
一部始終を見ていた桃太郎は、少し人間不信になりました。
「雪ちゃん。この展開は、僕たちも鬼退治に行くのかな…… 」
「一刀斎様の命令とあらば、従うわ」
雪子は武士の心を持っています。
主君の命令には、死を賭して従うのでした。
「僕は、戦いとか、あまり好きじゃないんだよなぁ」
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