【ショート小説】桃太郎と雪女

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「桃ちゃんは優しいからね。でも、戦うべきときに背中を向けるのは、優しさではないわ! 」  雪子がきっぱりと言い切りました。  桃太郎は、心をえぐられるほどの衝撃を受けました。 「うっ! そうだ…… その通りだ。雪ちゃん。僕は、危うく卑怯者になるところだった。困っている人を見捨てるなんて、僕にはできないよ」  雪子は桃太郎を抱きしめ、言うのでした。 「それでこそ、この雪子の夫です! もちろん私も行きます。鬼が何人いようとも、一刀斎様がいれば怖くないわ。一刀斎様こそが最強の鬼だから! 」 「こほん! 」  1間しかない家なので、一部始終をおじいさんとおばあさんも、聞いていました。 「雪子。桃太郎。ワシは行かん。お前たち2人で鬼を蹴散らしてきなさい」 「ええっ! 雪ちゃんはともかく、僕は鬼と戦うなんて…… 」 「はぁ。情けないのぅ…… ワシの鍛え方が、ちょっとばかし、足りなかったかのぅ…… ならば、ワシが全力でお前を鍛え抜くのと、どっちが良い? 」  どちらにしても死にそうでした。  桃太郎は、こんな展開になることを予想できなかった、自分の浅はかさを恥じました。  どうせ逃げられっこありません。 「行く! 鬼と戦うよ! 茶目っ気だってば! 」 「よし! ちょっと待ってなさい」  おじいさんは、家の裏に行くと、剣を2振り持ってきました。 「これは『国定』という名刀じゃ。岩をも断つと言われる斬れ味と、剛健な刀身が特徴じゃ。鬼の金棒を受けてもびくともせんじゃろう。持って行くがいい…… 」 「これで、いよいよ逃げられなくなったね」  桃太郎は、死を身近に感じました。  翌日、桃太郎と雪子は、村人が貸してくれた木製の立派な船に乗り込みました。 「僕たちもお供します。わんわん! 」 「犬吉、猿男、雉乃もお供に連れて行ってください。言うことを聞かないときは、この『キビ団子』を1個やれば大人しく従います」  村長が3人の従者と、団子が入った包みを手渡しました。  5人は船に乗り込みましだ。  犬吉が櫂を持ち、漕ぎ手になりました。 「では。ご武運をお祈りしております」  村長は、そう言うと、犬吉の方に目くばせをしました。 「頑張れよ~ 」 「雪ちゃ~ん! かわいい! 」 「夕飯までには帰れよ~ 」 「いよっ! 日本一! 」  村人たちの激励を受け、鬼が住むという、鬼が島へと漕ぎ出しました。
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