技術革新の光と闇

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技術革新の光と闇

 新しい技術は戦争によって生み出される。それは戦争という環境が平時よりも多くの需要を必要とするからである。  例えば、缶詰はナポレオンが軍用食料の輸送や保存のためのアイデアを募ったことが起源であるし、カーディガンは怪我をした者が着やすく、保温効果があって重ね着のできる衣服として考案された。  他にもティッシュペーパーや腕時計にランドセルなど戦争の需要によって開発されたものは枚挙に(いとま)がない。  そしてコンピューターと光ファイバーも、その例に漏れることはなかった。  コンピューターは暗号解読とミサイルの弾道計算のために開発されたし、光ファイバーは核攻撃による電磁パルスでも破壊されないものを前提に開発された。  そしてインターネットという今までになかった高度な通信技術の構築によってデジタル空間が生まれた。  Web1.0は文字情報から始まり、通信の高速化とともに画像と音声が使われるようになっていった。まだデジタル空間で情報のやり取りができるという事実だけで多くの人々が満たされた時代である。巨大掲示板への書き込みが話題になったり、マウスを数回クリックするだけで商品が自宅に届くネットショッピングに人々は驚いた。  インターネットがビジネスになる。大手ネットショップサイトの定番化や発信主体のホームページ運営から双方向通信主体のソーシャルネットワークサービス(SNS)への移り変わり、動画配信サービスの一般化などWeb2.0の時代に入ると、大手IT企業によるサービスの独占が問題視されるようになっていった。中小企業は巨大資本の前に無力である。その弱肉強食の原理はインターネットの世界においても変わらなかった。  Googleによる検索用語からのトレンド分析、FacebookやTwitterやInstagramによる個人情報とコミュニティ管理、Amazonによるショッピング情報からの生活スタイルと趣味嗜好の把握。それはインターネット使用率の高い人たちほど大企業にプライバシー情報を抜き取られていくというリスクを生んだ。  そして大手企業による個人情報流出問題や国家規模での情報収集行為の暴露、中華企業による通信端末への特殊チップの埋め込みなどの問題が発覚すると、人々は自分たちの個人情報をいかにして守っていけばよいのかという問題を抱えるようになっていった。 6ec5c80d-b82d-4783-8db4-076d016504e1  Web3.0はそんな情報セキュリティの在り方に踏み込んだものだった。それは最初ビットコインという仮想通貨の形で現れた。しかし、取引される仮想通貨よりも画期的だったのは、仮想通貨取引を裏で支えるブロックチェーン技術だった。  分散型複合台帳。特定の情報を複数の端末で管理することで、情報管理のリスクとコストを分散して部外者による情報の改竄や消失を防止する。  使用している端末で複合台帳のデータを管理することになるので自己責任割合は高い。だが、本来情報管理とは自分で行うか誰かに委ねるかの二者択一のものである。  このブロックチェーン技術によって情報を大手企業に委ねるだけでなく自分たちでも管理するという仕組みができたことで、デジタル空間は新しい時代を迎えたといってよい。  しかし、まだ課題は残っていた。それはサービスの運営管理に関わる分野においてである。  Web3.0はWeb1.0時代のような情報の個人管理とサービス提供が復活した反面、自己責任度合いは上がっている。それはWeb2.0で大手企業が行っていたような情報検閲が行われないことを意味していた。  世の中は健全な思考を持った人ばかりではない。そしてデジタル空間ではわずかな悪意ある行為だったとしても、それがシステム崩壊の引き金となることもある。  個人情報の独占と悪用を防ぎながら、個人の発信するサービスやコンテンツをどのように検閲していくのか。  その結果、デジタル空間ではWeb2.0のサービスとWeb3.0のサービスが乱立していくことになった。 3a1408ef-39eb-4940-bdf7-20bc55114956
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