銃弾

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 食事を終えた二人は、ぼんやりとテレビ画面を眺めていた。  ジェラルド・リーフは清廉潔白で教養ある人物だ。彼を思想的類似性からバートランド・ラッセルの再来と呼ぶ人もいるが、その容姿はクラシック音楽界の帝王と呼ばれたヘルベルト・フォン・カラヤンを彷彿とさせた。 「どんなに優れたシステムがあったとしても、管理運営する人々に問題があればその魅力は半減します。彼は世界各国のコンセンサスが取れ次第、システムの譲渡を宣言していますが、どうなっていくことでしょうね」  プロメテウスシステムの世界的な運営プロセスは、公安の要職にいる桐谷雅彦も注目しているようだった。  画面の中のジェラルドは、笑顔で自分を応援してくれている人々に手を振っていた。そんな彼に突然異変が起こった。  ビクンと一瞬だけ身体を震わせたかと思うと、苦痛に顔を歪めて真後ろに倒れ込んだのである。幸いすぐ隣にいたボディガードに支えられて転倒は(まぬが)れたものの、今度は彼の頭を衝撃が襲いかかった。  飛び散る鮮血。ジェラルドは完全にぐったりとなって倒れた。  涼真はジェラルド・リーフが狙撃を受けたことを理解した。  音声がミュートになっているのではっきりとは分からないが、現場はきっとパニック状態だろう。  画面の中のジェラルドの胸元は自らの血で赤く染まり、その頭部も、ボディガードに守られていて確認することができないが、ひどい状態になっているのは間違いなかった。 「これは、ダラスの再現か」  険しい表情でテレビ画面を睨み付けながら桐谷が呟いた。  店にいた人々のすべてが、あまりに大きな衝撃とともにテレビに釘付けになっていた。 「ちょっと失礼します」  店主らしき人物が奥から飛び出してきてテレビのミュートを解除した。  アナウンサーらしき人物の声が聞こえてくる。 『大変なことが起こってしまいました。プロメテウスシステムの世界運用に向けてアメリカを訪問中だったニューコムの総帥ジェラルド・リーフさんが、たった今、何者かによって銃撃されました。繰り返します。つい先ほどアメリカを訪問中だった……』  アナウンスを聞いた人々の口からどよめきが漏れた。  涼真はテレビ画面の中で展開されていく世界的な大事件の状況を、息を呑むようにしてただじっと眺めていた。  桐谷は立ち上がった。 「店を出ましょう。私はこれからオフィスに戻らなければならないようです」  涼真は黙って頷いた。
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