いなくなるまで、残り七日

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いなくなるまで、残り七日

 この日本という国での高等教育というモノは、一般的な常識で言えば、『義務教育』の範疇から外れているモノであり、そのため誰しもがそれを行うか否かを選択することができる。  しかしながら、一昔前なら、まだその選択をすることが理解される世の中ではあったのだろうが、今では誰しもがそれを行うことを選択し、さらにはその先の大学まで進学をすることすらも、もはや当たり前になってしまっている。  それすなわち、今の一般的な常識では、例外を除けば、『大学(またはそれに準ずる教育機関)に進学する』ことが、当たり前になってしまっているということだ。  そうなると、『選ぶ』という言葉は、どうも空々しく、また白々しいモノだと考えてしまう。  そしてそんなことを考えながらも、この昼下がりに、母が作ってくれた弁当を食べながら、友人と談笑している僕が、何よりも一番、空々しくて白々しい奴なのだと、そんな風に、僕は自分のことを自覚する。  しかし正面に座る友人は、当たり前に、そんな僕のことは考えず、どこから仕入れてきたのか、この季節にはそぐわない話を、それこそ、普段の彼にはそぐわない話し方で、話し始めたのだ。  「そういえばさぁ、知ってるか?」  そんな風に、まるでこれから都市伝説でも話し始めるような語り口で、友人は自身が昼食として食べている弁当から視線を外し、声と共に僕の方にそれを向けて言った。  「何が?」  そして向けられた僕は、彼とは違い、自身の弁当からは視線を外さず返事をする。  そしてそんな返事をされた友人は、視線を向けていない僕がわかる程に、ニヤリとした声色で話し出す。  「この学校、幽霊出るんだってさ...」  そんな言葉に釣られて、今度は視線を彼の方に向けてしまう。  そしてしばらく考えて、わざとらしく呆れた声色で返答をする。  「...へぇ~そうなんだ、そりゃあ、驚きだ」  理由は単純。  興味が無いし、馬鹿馬鹿しい。  まさか友人が語り出すのが、都市伝説ではなく学校の怪談だとは...  「なんだよ、彼方はこういうの、興味なかったっけ?」    そう言いながら、友人は自分の弁当の卵焼きを頬張る。  彼は僕とは違い、毎朝自分で弁当を作るそうだ。  それも妹の分も一緒に...  大したモノである。  しかしそう心では彼を褒めながら、彼との話では賛同するわけでもなければ、それどころか興味すら示さずに、僕は言葉を返す。  「季節外れも甚だしい...そういうのは、出来ればもっと前に知りたかった」    「おまえ、さては信じてないなぁ~」    「生憎ねぇ...」  「目撃者も居るのに~」  そう言いながら、得意気な表情でこちらを見つめる視線がうるさくて、ついまた、彼の方を見てしまう。  そしてそれが悔しい僕は、テキトウな言葉で返答する。  「そいつら全員、オカルト同好会とかじゃないの?」  そんな部活があるかは、知らんけど...  「バレー部の畑さん。この間部活終わりに教室に行ったら、見慣れない制服を着た女子生徒を見たって、騒いでたよ」  畑さんって...誰だっけ...?  「じゃあきっと転校生だなぁ~この時期にとはまた珍しい...」  「それも、この教室で見たんだと...」  「...」  「...」  「...じゃあ、校舎を散策していた転校生の女子生徒が、たまたまこの教室に迷い込んで、その畑さんだっけ...その人がそこに、たまたま出くわしたんだろ...」  そんな風に、明らかに不自然な偶然を語る僕を見て、彼は微笑みながら口を開く。  「お前、クラスメイトの名前くらいは覚えろよ」  そして僕は、そんな彼の底意地の悪い冗談に対して、同じように冗談で返そうと言葉を選ぶ。  「あと数日で他人だよ...」  まぁ今でも、それは大して変わらないのだけれど...
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