第九話『専門学校への転入』

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第九話『専門学校への転入』

 *(マレフィクス視点)*  今日から、近くの専門学校に通う。 『エトワール学校』、日本でいうなら大学くらいの大きさだ。  この街の中で、かなり大きい建物の一つだ。 「今日は転入された子を紹介します」  先生は若い女の先生で、変な癖などは無い常識人だ。 「入って来なさい」  教室に入り、馬鹿ヅラした生徒達を観察しつつ足を運ぶ。 「エアスト村出身!マレフィクス.ベゼ.ラズル!辛いことがたくさんあったが今はハッピーに生きてる!僕天才だから、初級クラスに居るのは一年だけだろうけど、よろしく!」  このクラスは、一番下の『初級クラス』。  素行の悪い奴やイキった奴らが多い為、馴染めやすそうなキャラで居ようと思う。  変に真面目だと行動しづらいと考えたのさ。  教室は大学のような長い机のある教室では無く、中学校や高校のような一人一つの席がある教室だ。  だが、机は大きめで教室も広々している。 「お前目ん玉真っ赤だけど寝不足かい?それとも悪魔の子とかじゃねぇよな?」  席に座った途端、見るからにイキった奴が絡んできた。 「生まれつき目がこういう目なんだ。慣れないかもしれないけど、悪魔の子じゃないから安心して」  ――悪魔に限りなく近い存在ではあるがな。 「お前ニュースで名前上がってた。ベゼってミドルネームだけど、その名前で呼んでいいか?」 「ちょっと止めなよ〜、辛いの思い出して泣いちゃうんじゃない?ねっ?ベゼ君!」  こいつらは、僕がエアスト村を襲撃した『ベゼ』を憎んでいると思い、挑発してるようだが……残念ながら僕がベゼ本人だ。 「好きに呼んでいいよ。ベゼでもマレフィクスでも」 「なんだお前……結構面白い奴だな」 「ベゼってのは流石に冗談!よろしくマレフィクス」  僕ができる奴だと気付いた途端、態度を変えやがった。  手のひら返しも、ここまで来ると清々しい。  取り敢えず、このクラスで一番地位のありそうなグループに気に入られた。  全く嬉しくは無いが、クラス内では発言しやすくなるはずだ。  * * *  放課後になり、だいたいどんな感じのクラスか分かった。  授業中は常に私語が通っており、発狂したり立ち歩くのは当たり前。  先生も注意するのを諦めており、授業は真面目な奴だけが聞いている。  授業をしっかり受けたいと考えていた僕からしたら、最低なクラスだ。 「おい、あいつ絞めねぇ?」 「けど、ついこの前やられたばかりじゃん」 「次はあのクマを人質にするんだよ」 「なるほど!」 「分かったら配置つけ」  俺が仲良くなり始めてるグループが、何やら小さな声で、悪巧みのようなことをしている。  目線の先的に『あいつ』ってのは、教室の隅に居る白い髪をした奴のことだろう。 「何すんの?」 「しゃあねぇな!マレフィクスもやるか?」 「あそこに居る奴、絞めるの?」 「話が早い!」  やはり今から、白い髪した男――いや女?性別不明の奴をどうにかするようだ。 「なんかされたの?」 「気に入らねぇだけだ。ホアイダ.ルト.ユスティシー、性別不明、魔法を無詠唱で使えるが能力は使えない。いつもクマのぬいぐるみを持ち歩くぼっち野郎」 「分かった、取り敢えず邪魔にならないようついて行くよ」 「お前はクマのぬいぐるみを奪って校舎裏に来い。俺ら待ってるから」 「は?僕がやんの!?」  ――ムカつく野郎共だ……作戦の先陣を僕に任せやがった。今は耐えてやるが、時が来たらぶっ殺してやる。  男四人、女二人が僕を置いて、校舎裏まで向かってく。  それを確認し、僕はゆっくりとホアイダに近づいた。 「やぁ!そのぬいぐるみ可愛いね」  近くで見たらますます変な奴だった。  この学校は、男女別で制服が統一されているはずだが、ホアイダの制服は少し改造されていた。  ワイシャツ、ネクタイ、黄緑色のパーカー、ここまでは問題ない……しかし下は、ゴスロリのようなロングスカートで、靴に関しては黒いブーツだった。  男はネクタイ、女はリボンなのに、ネクタイでスカートを身に付けている。  はっきり言って、自由過ぎる。 「ありがとうございます。ポム吉って名前なんです」  声的には女に近いが、まだ12歳ってこともあり、はっきりは分からない。 「ちょっと貸してくれない?」 「良いですよ」  ――馬鹿め。  ホアイダが、クマのぬいぐるみ――ポム吉を渡した瞬間、僕は机を飛び越え、教室を出て行った。 「バカアホチビマヌケ!」 「そんなぁ……」  ホアイダはすぐに僕を追いかける。  * * *  校舎裏では、さっきの六人が鉄パイプを持って、僕を待っていた。 「良くやった!早くクマをよこせ!」  ポム吉をリーダー格の奴に渡す。  するとそいつは、ポム吉をボロの椅子に縛った。 「来た!」  どうやら角で待ち伏せ、フルボッコにする作戦らしい。  ホアイダが僕を見つけると、待ち伏せされていることも知らずに突っ込んで来た。  男四人は、ホアイダが飛び出した瞬間を狙い、パイプで腹や足を容赦なく叩く。 「がはぁ!?」 「オーケイ!両手両足抑えろ!」  ホアイダを壁にぶつけ、手足を押さえ付ける。 「ホアイダー、魔法使う素振り見せた瞬間クマを燃やすからな?黙って泣いてろよ?」  リーダー格の奴がホアイダを一発殴る。 「うっ……」 「スッキリ!じゃあ取り敢えず、こいつが男か女か確かめよう……脱がせろ」 「きゃはは!女だったらどうするのさ?」 「遊ぶに決まってんだろ?」  女二人は笑い、男四人はカッターを使って、ホアイダの制服を乱暴に切り、脱がせようとする。 「放して!!止めてぇぇー!!」  ホアイダは、ボコボコのボロボロで、涙目になりながら抵抗していた。  ――なんだろう。  こいつらがやってることは、僕と大して変わらないし、僕に比べたら可愛いもんだ。  それに、僕だって弱い者いじめは嫌いじゃないし、力でねじ伏せるのは大好きだ。  ――しかしなぜ?  ほんの少しだけ心が落ち着かなく、苛立ちを覚えている。  別にホアイダを可哀想とも思わない……しかしなぜ? 「ぐへっ!?」  僕の体は正直だった。  気付いた時にはリーダー格の奴を蹴り潰していた。 「何してんの!?」  ――あぁ、この苛立ちの理由が分かった。 「ハハッ、てめぇらの目ん玉は状況も理解出来ねぇのか?」  ――自分以外で楽しそうに調子こく奴が……気に食わないんだ。 「ヘラヘラ笑う特技はどうした?しないなら泣き叫ぶ特技を披露してもらおうかな?」  男の一人からパイプを奪い、頭、目、股間と、次々に一人一発、急所を叩く。 「きゃー!!」 「はやく逃げて!」  女二人は、慌てて逃げようとする。 「安心しな、僕は男女平等主義者なの。火魔法、フォティア.ラナ」  容赦なく、女二人の髪に火の玉を放つ。 「ぎぁぁぃ!!」 「水を探せ!水を!」  だが、壁に寄り添い震えていたホアイダが、女二人に水の魔法を放ったことで、火が消える。  女二人は、燃えて無くなった髪を抑えて、走り去って行った。 「死んだら困るから……とか考えて火を消したのか?僕が君なら絶対ほくそ笑むけどね。ざま見ろカスのビッチが!ってね」  僕は男の体を踏み付けながら、ホアイダに近付く。  ホアイダのワイシャツと、ゴスロリ風のロングスカートは破れ、ネクタイは少し伸びていた。  髪の毛もくしゃくしゃになり、顔や腕には目立つ傷が出来てる。 「結構どっち?男?女?」 「自分でも……まだ分かりきって、ない」  ホアイダが、涙目で震えながら言う。  はっきり分からないってことは、前世でいうXジェンダーのようなものだな。 「あっそう……別にそんな興味無いけどさ、こういうレイプまがいのようなことされたくなかったら、そんな派手なスカート着るなって話よ」  そう言い、その場を立ち去ろうとした途端、ホアイダが僕の足を掴んだ。 「何?」  ちょっと不機嫌そうな目線を送る。 「あっ、助けてくれて……ありがとうございます」 「結果的に助けただけだ……勘違いするな」  ホアイダの頭を抑え、圧と恐怖を与えるように言う。  さっき以上に、ホアイダはビビっていた。
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