13人が本棚に入れています
本棚に追加
第九話『専門学校への転入』
*(マレフィクス視点)*
今日から、近くの専門学校に通う。
『エトワール学校』、日本でいうなら大学くらいの大きさだ。
この街の中で、かなり大きい建物の一つだ。
「今日は転入された子を紹介します」
先生は若い女の先生で、変な癖などは無い常識人だ。
「入って来なさい」
教室に入り、馬鹿ヅラした生徒達を観察しつつ足を運ぶ。
「エアスト村出身!マレフィクス.ベゼ.ラズル!辛いことがたくさんあったが今はハッピーに生きてる!僕天才だから、初級クラスに居るのは一年だけだろうけど、よろしく!」
このクラスは、一番下の『初級クラス』。
素行の悪い奴やイキった奴らが多い為、馴染めやすそうなキャラで居ようと思う。
変に真面目だと行動しづらいと考えたのさ。
教室は大学のような長い机のある教室では無く、中学校や高校のような一人一つの席がある教室だ。
だが、机は大きめで教室も広々している。
「お前目ん玉真っ赤だけど寝不足かい?それとも悪魔の子とかじゃねぇよな?」
席に座った途端、見るからにイキった奴が絡んできた。
「生まれつき目がこういう目なんだ。慣れないかもしれないけど、悪魔の子じゃないから安心して」
――悪魔に限りなく近い存在ではあるがな。
「お前ニュースで名前上がってた。ベゼってミドルネームだけど、その名前で呼んでいいか?」
「ちょっと止めなよ〜、辛いの思い出して泣いちゃうんじゃない?ねっ?ベゼ君!」
こいつらは、僕がエアスト村を襲撃した『ベゼ』を憎んでいると思い、挑発してるようだが……残念ながら僕がベゼ本人だ。
「好きに呼んでいいよ。ベゼでもマレフィクスでも」
「なんだお前……結構面白い奴だな」
「ベゼってのは流石に冗談!よろしくマレフィクス」
僕ができる奴だと気付いた途端、態度を変えやがった。
手のひら返しも、ここまで来ると清々しい。
取り敢えず、このクラスで一番地位のありそうなグループに気に入られた。
全く嬉しくは無いが、クラス内では発言しやすくなるはずだ。
* * *
放課後になり、だいたいどんな感じのクラスか分かった。
授業中は常に私語が通っており、発狂したり立ち歩くのは当たり前。
先生も注意するのを諦めており、授業は真面目な奴だけが聞いている。
授業をしっかり受けたいと考えていた僕からしたら、最低なクラスだ。
「おい、あいつ絞めねぇ?」
「けど、ついこの前やられたばかりじゃん」
「次はあのクマを人質にするんだよ」
「なるほど!」
「分かったら配置つけ」
俺が仲良くなり始めてるグループが、何やら小さな声で、悪巧みのようなことをしている。
目線の先的に『あいつ』ってのは、教室の隅に居る白い髪をした奴のことだろう。
「何すんの?」
「しゃあねぇな!マレフィクスもやるか?」
「あそこに居る奴、絞めるの?」
「話が早い!」
やはり今から、白い髪した男――いや女?性別不明の奴をどうにかするようだ。
「なんかされたの?」
「気に入らねぇだけだ。ホアイダ.ルト.ユスティシー、性別不明、魔法を無詠唱で使えるが能力は使えない。いつもクマのぬいぐるみを持ち歩くぼっち野郎」
「分かった、取り敢えず邪魔にならないようついて行くよ」
「お前はクマのぬいぐるみを奪って校舎裏に来い。俺ら待ってるから」
「は?僕がやんの!?」
――ムカつく野郎共だ……作戦の先陣を僕に任せやがった。今は耐えてやるが、時が来たらぶっ殺してやる。
男四人、女二人が僕を置いて、校舎裏まで向かってく。
それを確認し、僕はゆっくりとホアイダに近づいた。
「やぁ!そのぬいぐるみ可愛いね」
近くで見たらますます変な奴だった。
この学校は、男女別で制服が統一されているはずだが、ホアイダの制服は少し改造されていた。
ワイシャツ、ネクタイ、黄緑色のパーカー、ここまでは問題ない……しかし下は、ゴスロリのようなロングスカートで、靴に関しては黒いブーツだった。
男はネクタイ、女はリボンなのに、ネクタイでスカートを身に付けている。
はっきり言って、自由過ぎる。
「ありがとうございます。ポム吉って名前なんです」
声的には女に近いが、まだ12歳ってこともあり、はっきりは分からない。
「ちょっと貸してくれない?」
「良いですよ」
――馬鹿め。
ホアイダが、クマのぬいぐるみ――ポム吉を渡した瞬間、僕は机を飛び越え、教室を出て行った。
「バカアホチビマヌケ!」
「そんなぁ……」
ホアイダはすぐに僕を追いかける。
* * *
校舎裏では、さっきの六人が鉄パイプを持って、僕を待っていた。
「良くやった!早くクマをよこせ!」
ポム吉をリーダー格の奴に渡す。
するとそいつは、ポム吉をボロの椅子に縛った。
「来た!」
どうやら角で待ち伏せ、フルボッコにする作戦らしい。
ホアイダが僕を見つけると、待ち伏せされていることも知らずに突っ込んで来た。
男四人は、ホアイダが飛び出した瞬間を狙い、パイプで腹や足を容赦なく叩く。
「がはぁ!?」
「オーケイ!両手両足抑えろ!」
ホアイダを壁にぶつけ、手足を押さえ付ける。
「ホアイダー、魔法使う素振り見せた瞬間クマを燃やすからな?黙って泣いてろよ?」
リーダー格の奴がホアイダを一発殴る。
「うっ……」
「スッキリ!じゃあ取り敢えず、こいつが男か女か確かめよう……脱がせろ」
「きゃはは!女だったらどうするのさ?」
「遊ぶに決まってんだろ?」
女二人は笑い、男四人はカッターを使って、ホアイダの制服を乱暴に切り、脱がせようとする。
「放して!!止めてぇぇー!!」
ホアイダは、ボコボコのボロボロで、涙目になりながら抵抗していた。
――なんだろう。
こいつらがやってることは、僕と大して変わらないし、僕に比べたら可愛いもんだ。
それに、僕だって弱い者いじめは嫌いじゃないし、力でねじ伏せるのは大好きだ。
――しかしなぜ?
ほんの少しだけ心が落ち着かなく、苛立ちを覚えている。
別にホアイダを可哀想とも思わない……しかしなぜ?
「ぐへっ!?」
僕の体は正直だった。
気付いた時にはリーダー格の奴を蹴り潰していた。
「何してんの!?」
――あぁ、この苛立ちの理由が分かった。
「ハハッ、てめぇらの目ん玉は状況も理解出来ねぇのか?」
――自分以外で楽しそうに調子こく奴が……気に食わないんだ。
「ヘラヘラ笑う特技はどうした?しないなら泣き叫ぶ特技を披露してもらおうかな?」
男の一人からパイプを奪い、頭、目、股間と、次々に一人一発、急所を叩く。
「きゃー!!」
「はやく逃げて!」
女二人は、慌てて逃げようとする。
「安心しな、僕は男女平等主義者なの。火魔法、フォティア.ラナ」
容赦なく、女二人の髪に火の玉を放つ。
「ぎぁぁぃ!!」
「水を探せ!水を!」
だが、壁に寄り添い震えていたホアイダが、女二人に水の魔法を放ったことで、火が消える。
女二人は、燃えて無くなった髪を抑えて、走り去って行った。
「死んだら困るから……とか考えて火を消したのか?僕が君なら絶対ほくそ笑むけどね。ざま見ろカスのビッチが!ってね」
僕は男の体を踏み付けながら、ホアイダに近付く。
ホアイダのワイシャツと、ゴスロリ風のロングスカートは破れ、ネクタイは少し伸びていた。
髪の毛もくしゃくしゃになり、顔や腕には目立つ傷が出来てる。
「結構どっち?男?女?」
「自分でも……まだ分かりきって、ない」
ホアイダが、涙目で震えながら言う。
はっきり分からないってことは、前世でいうXジェンダーのようなものだな。
「あっそう……別にそんな興味無いけどさ、こういうレイプまがいのようなことされたくなかったら、そんな派手なスカート着るなって話よ」
そう言い、その場を立ち去ろうとした途端、ホアイダが僕の足を掴んだ。
「何?」
ちょっと不機嫌そうな目線を送る。
「あっ、助けてくれて……ありがとうございます」
「結果的に助けただけだ……勘違いするな」
ホアイダの頭を抑え、圧と恐怖を与えるように言う。
さっき以上に、ホアイダはビビっていた。
最初のコメントを投稿しよう!