第十一話『敵との再開』

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第十一話『敵との再開』

「照れちゃう照れちゃう!」 「照れんなエロ吉」 「そんな!?」  専門学校に通い、一週間が経った。  学校にも、ホアイダにも、ポム吉にも慣れた。  いつもホアイダは、自分とポム吉の一人二役で話しかけてくる。  最初はイカれてんのか?と思ったが、今じゃイカれてることに確信が付き、ホアイダの扱いに慣れた。 「マレフィクスはステーキが好きなのですね」 「まぁね。それに、昼からステーキを食べれるのは最高だ。けど月に一度にしとくよ」 「なぜです?」 「毎日平凡な食だから、月一のステーキがより美味しい。分かるっしょ?」  昼食はいつも食堂だ。  セスターが僕にお小遣いを必要以上にくれるから、お金は問題ないし、ここの食堂はメニューがレストラン並に多い。  より多くの食事が楽しめる。 「ムシャムシャ」 「こらっ!ダメでしょポムちゃん!」 「ごめんなしゃい」  やっぱホアイダは、控えめに言ってイカれてる。  一人でポム吉につまみ食いさせ、一人で叱って、一人でポム吉に謝らせてる。  こりゃ友達居ないのも納得だ。  ちなみに、いつも丁寧口癖なホアイダも、ポム吉にだけは当たりが強い。 「やはり私は変でしょうか?」  ――少しは自覚あるのか。 「変だよ」 「ですよね、分かってました」 「けど、皆どこかは変だ。ホアイダは表面で分かるけど、大抵の皆は内面で変人だよ」 「本当ですか?」 「本当」  ――例えば僕とかね。  ホアイダにちょっと優しくすると、いつも決まってエロ可愛い顔をする。  僕は、前世から恋をしたことないし、愛なども感じたことはない……それどころか、色欲もない。  それでも、この表情は結構好きだ。 「お前!?マレフィクス!この学校に転入して来てたのか?連絡くれないから心配してたぜ!」  遠くから突然、見覚えのある美少年に話しかけられた。  僕が大都市メディウムに来た時、一番最初に会った少年――ヴェンディだ。 「知り合いですか?」 「さぁね、知らない」  取り敢えず知らないふりしよう。  ヴェンディは、僕からエアスト村のことを聞きたがっていた。  答えるのが面倒だ。 「しかも隣のお前はホアイダじゃん!お前ら、付き合ってんのか?」 「違います……友達です」 「そう、付き合ってるの。だから邪魔しないで」  ホアイダが嫌そうな顔で目を逸らし、ヴェンディは少し困惑する。  だが、ヴェンディはしつこい。 「それはともかく……俺だよマレフィクス、この都市に来た時、倒れていた所を助けたろ?」 「……あー!君か?思い出した!この前はどうもね」  ここまで来たら、ごまかす方が疲れる。  僕は、仕方なく思い出したふりをし、和気あいあいと会話をすることにした。 「なぁ、前座っていいか?」 「どうぞ」  ヴェンディは僕らの前に座り、テーブルにコメモチ抜きのトンカツ定食を乗っけた。 「お前ら何で仲良くしてんの?失礼なこと言うけど、ホアイダに関わるなんて……マレフィクスお前、ちょっと変わってるぜ?」  ――そういうお前の方がも変わってる。 「たまにエロい顔をするから」 「しっ、しませんよ、そんな顔………」  ホアイダは、照れた自分の顔をポム吉で隠す。  ヴェンディは、完全に僕に引いてる。 「この表情とかね」 「お前最低だな」 「そりゃどうも」  ヴェンディの引き顔がドン引きの域になる。  僕に引きながらも、ヴェンディはトンカツに手を付け始めた。 「コメモチを抜いたのですか?」 「まぁな、違う主食があるからな」  ヴェンディの食べてるメニューはトンカツ定食。  この国の主食であるコメモチ、メインのトンカツ、副食のキャベツの三点セットのメニュー。  だが、ヴェンディのトンカツ定食には、コメモチが無かった。  変わりに、ヴェンディが取り出したのは、見覚えのある主食だった。 「これは?」 「コメモチを炊く時、水を少なめにしたらこうなる。俺はこれをお米って呼んでる……結構美味しいよ?」  そう、名前だけじゃなく見た目も、僕が良く知る『お米』だった。  白いのはコメモチ同様だが、みずみずしく米一粒一粒がくっきりして、生きているような美しいさ……懐かしい。 「お米……」 「一口食べるか?」 「ぜひ食べたい」  ヴェンディから貰ったお米を一口、優しく大切に噛み締める。  12年振りのお米……甘味はコメモチ程では無いが、感触はコメモチには無い深みがある。 「うんまぁ!」 「だろ?」 「私も一口下さい」 「良いよ」  ホアイダも僕と同様、とろけたような甘い表情を浮かべる。 「とても、美味しいです」 「そりゃ良かった。結構簡単に出来るから、お前らも試してみるといい」  ――おっと、危ない危ない……久々のお米で、美味しいで済ませる所だった。  今肝心なのは、前世にあったお米の存在を、ヴェンディが編み出したってことが肝心だ。  普通は思いつかないし、思いついても全く同じ名称の『お米』と名付けるか?  たまたまと言われたらそこまでだが、たまたまで済ませていい訳ない。  こんなこと思い付くのは、日本の食文化『お米』を知ってる奴だけだ。  仮にこいつが日本からの転生者、つまりセイヴァーだったとしよう。  セイヴァーは、自分以外に転生者が居ることを知らない……てっきり自分だけだと思って、他人に前世の知識や技術を披露するのは変じゃない。  僕はセイヴァーという転生者が居ることを知ってるから、下手な真似はしないが……セイヴァーは僕を知らない。  しかし、ヴェンディ=転生者=セイヴァー説は確定じゃない。  こいつが転生者だという確信が欲しい。 「ヴェンディ、そういえば君はどのクラスなの?」 「特級クラス」  とにかく、出来るだけヴェンディから情報を得よう。 「さっき一人だったよね?わざわざ僕達に話しかけて……もしかして友達居ないの?」 「それなりに仲が良い奴は居る……けど価値観が違ったり、会話がつまらなかったり……他人に合わせるのが嫌になってな」 「友達居ないでいいじゃん……カッコつけんなよ」 「お前、もしや性格悪いな?」  今頃気付くヴェンディ……少し寂しそうだった表情が、一気にムスッとした表情になる。 「僕ら昼はここに居るから、暇つぶしに来てもいいよ。性格悪い同士仲良くやろうね」 「俺は性格悪くねぇよ」  この様子なら、昼食の時間にはヴェンディに会えそうだ。  つまり、こいつが転生者か知る機会を、掴める可能性があるってことだ。 「また明日ね、ヴェンディ」 「またな、マレフィクス、ホアイダ」  僕とホアイダは席を立ち、その場を立ち去ろうとする。  しかし、ヴェンディが僕を引き止める。 「おいマレフィクス!」 「……何?」 「さっき性格悪いって言ったけど、訂正する」 「……どうも」  訂正したのは間違いだぞヴェンディ……お前がセイヴァーなら尚更だ。  僕はマレフィクス.ベゼ.ラズル、通称ベゼ。  僕より悪は居ない……居たとしても、いずれそれを超える。  少なくとも君達人間からしたら、僕は最も邪悪な存在だ。  僕にとっての楽しいが、君達人間にとって邪悪なことなのだ。  仕方ないよね。 「もしかしたらマレフィクス以外に友達ができるかもしれません」 「良かったね」 「はい。けどそのきっかけはマレフィクスです……ちょっと早いですけど、感謝します」 「どういたしまして」  ホアイダの信じきった顔を見るといつも思う。  僕の正体を知ったら、この顔はどう歪むのだろうか……考えただけでワクワクする。
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