13人が本棚に入れています
本棚に追加
第十一話『敵との再開』
「照れちゃう照れちゃう!」
「照れんなエロ吉」
「そんな!?」
専門学校に通い、一週間が経った。
学校にも、ホアイダにも、ポム吉にも慣れた。
いつもホアイダは、自分とポム吉の一人二役で話しかけてくる。
最初はイカれてんのか?と思ったが、今じゃイカれてることに確信が付き、ホアイダの扱いに慣れた。
「マレフィクスはステーキが好きなのですね」
「まぁね。それに、昼からステーキを食べれるのは最高だ。けど月に一度にしとくよ」
「なぜです?」
「毎日平凡な食だから、月一のステーキがより美味しい。分かるっしょ?」
昼食はいつも食堂だ。
セスターが僕にお小遣いを必要以上にくれるから、お金は問題ないし、ここの食堂はメニューがレストラン並に多い。
より多くの食事が楽しめる。
「ムシャムシャ」
「こらっ!ダメでしょポムちゃん!」
「ごめんなしゃい」
やっぱホアイダは、控えめに言ってイカれてる。
一人でポム吉につまみ食いさせ、一人で叱って、一人でポム吉に謝らせてる。
こりゃ友達居ないのも納得だ。
ちなみに、いつも丁寧口癖なホアイダも、ポム吉にだけは当たりが強い。
「やはり私は変でしょうか?」
――少しは自覚あるのか。
「変だよ」
「ですよね、分かってました」
「けど、皆どこかは変だ。ホアイダは表面で分かるけど、大抵の皆は内面で変人だよ」
「本当ですか?」
「本当」
――例えば僕とかね。
ホアイダにちょっと優しくすると、いつも決まってエロ可愛い顔をする。
僕は、前世から恋をしたことないし、愛なども感じたことはない……それどころか、色欲もない。
それでも、この表情は結構好きだ。
「お前!?マレフィクス!この学校に転入して来てたのか?連絡くれないから心配してたぜ!」
遠くから突然、見覚えのある美少年に話しかけられた。
僕が大都市メディウムに来た時、一番最初に会った少年――ヴェンディだ。
「知り合いですか?」
「さぁね、知らない」
取り敢えず知らないふりしよう。
ヴェンディは、僕からエアスト村のことを聞きたがっていた。
答えるのが面倒だ。
「しかも隣のお前はホアイダじゃん!お前ら、付き合ってんのか?」
「違います……友達です」
「そう、付き合ってるの。だから邪魔しないで」
ホアイダが嫌そうな顔で目を逸らし、ヴェンディは少し困惑する。
だが、ヴェンディはしつこい。
「それはともかく……俺だよマレフィクス、この都市に来た時、倒れていた所を助けたろ?」
「……あー!君か?思い出した!この前はどうもね」
ここまで来たら、ごまかす方が疲れる。
僕は、仕方なく思い出したふりをし、和気あいあいと会話をすることにした。
「なぁ、前座っていいか?」
「どうぞ」
ヴェンディは僕らの前に座り、テーブルにコメモチ抜きのトンカツ定食を乗っけた。
「お前ら何で仲良くしてんの?失礼なこと言うけど、ホアイダに関わるなんて……マレフィクスお前、ちょっと変わってるぜ?」
――そういうお前の方がも変わってる。
「たまにエロい顔をするから」
「しっ、しませんよ、そんな顔………」
ホアイダは、照れた自分の顔をポム吉で隠す。
ヴェンディは、完全に僕に引いてる。
「この表情とかね」
「お前最低だな」
「そりゃどうも」
ヴェンディの引き顔がドン引きの域になる。
僕に引きながらも、ヴェンディはトンカツに手を付け始めた。
「コメモチを抜いたのですか?」
「まぁな、違う主食があるからな」
ヴェンディの食べてるメニューはトンカツ定食。
この国の主食であるコメモチ、メインのトンカツ、副食のキャベツの三点セットのメニュー。
だが、ヴェンディのトンカツ定食には、コメモチが無かった。
変わりに、ヴェンディが取り出したのは、見覚えのある主食だった。
「これは?」
「コメモチを炊く時、水を少なめにしたらこうなる。俺はこれをお米って呼んでる……結構美味しいよ?」
そう、名前だけじゃなく見た目も、僕が良く知る『お米』だった。
白いのはコメモチ同様だが、みずみずしく米一粒一粒がくっきりして、生きているような美しいさ……懐かしい。
「お米……」
「一口食べるか?」
「ぜひ食べたい」
ヴェンディから貰ったお米を一口、優しく大切に噛み締める。
12年振りのお米……甘味はコメモチ程では無いが、感触はコメモチには無い深みがある。
「うんまぁ!」
「だろ?」
「私も一口下さい」
「良いよ」
ホアイダも僕と同様、とろけたような甘い表情を浮かべる。
「とても、美味しいです」
「そりゃ良かった。結構簡単に出来るから、お前らも試してみるといい」
――おっと、危ない危ない……久々のお米で、美味しいで済ませる所だった。
今肝心なのは、前世にあったお米の存在を、ヴェンディが編み出したってことが肝心だ。
普通は思いつかないし、思いついても全く同じ名称の『お米』と名付けるか?
たまたまと言われたらそこまでだが、たまたまで済ませていい訳ない。
こんなこと思い付くのは、日本の食文化『お米』を知ってる奴だけだ。
仮にこいつが日本からの転生者、つまりセイヴァーだったとしよう。
セイヴァーは、自分以外に転生者が居ることを知らない……てっきり自分だけだと思って、他人に前世の知識や技術を披露するのは変じゃない。
僕はセイヴァーという転生者が居ることを知ってるから、下手な真似はしないが……セイヴァーは僕を知らない。
しかし、ヴェンディ=転生者=セイヴァー説は確定じゃない。
こいつが転生者だという確信が欲しい。
「ヴェンディ、そういえば君はどのクラスなの?」
「特級クラス」
とにかく、出来るだけヴェンディから情報を得よう。
「さっき一人だったよね?わざわざ僕達に話しかけて……もしかして友達居ないの?」
「それなりに仲が良い奴は居る……けど価値観が違ったり、会話がつまらなかったり……他人に合わせるのが嫌になってな」
「友達居ないでいいじゃん……カッコつけんなよ」
「お前、もしや性格悪いな?」
今頃気付くヴェンディ……少し寂しそうだった表情が、一気にムスッとした表情になる。
「僕ら昼はここに居るから、暇つぶしに来てもいいよ。性格悪い同士仲良くやろうね」
「俺は性格悪くねぇよ」
この様子なら、昼食の時間にはヴェンディに会えそうだ。
つまり、こいつが転生者か知る機会を、掴める可能性があるってことだ。
「また明日ね、ヴェンディ」
「またな、マレフィクス、ホアイダ」
僕とホアイダは席を立ち、その場を立ち去ろうとする。
しかし、ヴェンディが僕を引き止める。
「おいマレフィクス!」
「……何?」
「さっき性格悪いって言ったけど、訂正する」
「……どうも」
訂正したのは間違いだぞヴェンディ……お前がセイヴァーなら尚更だ。
僕はマレフィクス.ベゼ.ラズル、通称ベゼ。
僕より悪は居ない……居たとしても、いずれそれを超える。
少なくとも君達人間からしたら、僕は最も邪悪な存在だ。
僕にとっての楽しいが、君達人間にとって邪悪なことなのだ。
仕方ないよね。
「もしかしたらマレフィクス以外に友達ができるかもしれません」
「良かったね」
「はい。けどそのきっかけはマレフィクスです……ちょっと早いですけど、感謝します」
「どういたしまして」
ホアイダの信じきった顔を見るといつも思う。
僕の正体を知ったら、この顔はどう歪むのだろうか……考えただけでワクワクする。
最初のコメントを投稿しよう!