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第十二話『罠と確信』
学校でヴェンディと会ってから、一週間が経った。
ヴェンディとは、昼食と合同授業の時しか会わないが、表面上は友達だ。
合同授業である魔法基礎と能力基礎の時間は、僕とホアイダとヴェンディの三人で一緒に居る。
「能力は生まれ持った才能というのは皆さんご存じですよね?専門家の間では、その人の性格や人生に適した能力になっていると言われているんです」
能力基礎の時間。
授業の内容は実技か講義のどちらか。
僕以外も大抵そうだろうが、講義はつまらなく、実技はそれなりに楽しい。
今日は残念ながら講義だ。
「だってよホアイダ、君の性格と人生は無いと同然らしいよ」
「そんなぁ」
「マレフィクスお前、そういう人が傷つく発言はやめろよ」
ヴェンディは、かなり正義感の強い奴だ。
ダメなものはダメとはっきり言うし、人助けは率先してやる。
セイヴァーも、悪人を殺しまわる程正義感が強い……人物像が近い気がする。
この前昼食で見せた『お米』、あれ以来僕は、ヴェンディが転生者じゃないか疑っている。
「ホアイダ、お前も嫌なら嫌って言えよ?」
「嫌な時はちゃんと言います。それに、マレフィクスの嫌味は冗談だと分かってます」
――残念、冗談じゃない……毎回本気なんだな。
「それじゃ、能力基礎の時間を終わります」
チャイムが鳴り、四時間目の能力基礎が終わる。
僕ら三人は、教室を出てそのまま食堂に向かう。
さっき、ヴェンディが転生者――つまりセイヴァーじゃないか疑っていると言ったよね?
実は今日、それを確かめる罠を仕掛けた。
その罠の場所、それは今から向かう食堂だ。
「混む前に早く行こうぜ」
人混みを避けながら、廊下を突っ走る。
学校には、二つ食堂があるが、僕らが使ってるのは一から三年の三学年が使用する食堂だ。
食堂には既に何人か人が居て、皆が床の一点に集まっていた。
「なんだ?床に飯でもあんのか?」
「特級クラスの癖に頭悪い発言だな」
人々が見ていたのは、床に大きく書かれた文字だった。
ただし、この国の母語でも共通語でもない。
それどころか、この世界の住人なら知らない文字。
そう、日本語だ。
これこそ、ヴェンディが転生者か調べる罠なのだ。
「え!?」
案の定、ヴェンディは分かりやすい良い反応をした。
日本語で書いた内容は『この食堂のどこかに爆弾を仕掛けた』。
正義感の強いヴェンディなら、何かしらの反応をすると読んでいたが……予想通りだった。
「読めるの?」
「え?まさかぁ、見たことない文字だ」
「そう……」
ヴェンディは瞬きが多くなり、目が泳ぎ始め、落ち着きが無くなってきた。
やはりヴェンディ、お前はこの日本語が読めるらしいな。
しかし、この日本語を書いたことで、もう一人転生者が居ることを教えてしまったことになる。
ヴェンディはすぐに、誰かの罠だと気付くはずだ。
「ほっとこ、それよりお腹減った」
「あぁ、そうだな。食べよう」
少し勢いと元気を失ったヴェンディと、とぼけた顔のホアイダと共に、いつも通りメニューを選ぶ。
メニューを選び終え、いつもの席に座ると、ヴェンディは真剣な表情を浮かべた。
きっと今頃、もう一人の転生者の罠だと気付いたんだろう。
「どうしたのですかヴェンディ?そんなにさっきの文字が気になります?」
「んー、まぁな。犯人は何の目的があって、あんなイタズラをしたのか疑問に思って」
――分かってる癖に良く言うぜ。
「つまんないこといつまでも考えるなよ。話すならもっと楽しい話題出してよ」
「それもそうだな」
「楽しい話題で思い出した。ヴェンディの能力ってどんなの?」
ヴェンディは落ち着きを取り戻し、さっきまで泳がせてた目を合わせてきた。
「能力?あー、お互いに能力基礎の時間に見せるってのは?」
「まぁ、それでいいけど」
こいつがセイヴァーだと分かったなら、能力を知っておきたい。
もしかすると、能力が転移系かもしれないからな。
「私の能力も見せましょうか?」
「……」
「ハハッ!お前冗談言えたのかよ?ここ最近で一番面白かったわ」
「ヘヘッ、ありがとうございます」
冗談言うホアイダも珍しいが、ヴェンディがこんなにウケたことも珍しい。
僕に関しては、ホアイダの発言が冗談と気付けなかった。
「ご馳走様です」
三十分後、僕らは食事を終え、お互いの教室に向かった。
ホアイダと初級クラスに戻る時、最後の最後までヴェンディを見張っていた。
すると、ヴェンディはクラスに向かわず、また食堂に戻った。
「おいホアイダ、ヴェンディの奴また食堂に向かったよ」
「忘れ物では?」
「かもね……だがちょっと気になる。もうすぐ授業が始まる。君は先に教室に戻ってて、ちょっと見に行って来る」
ホアイダを適当に足らい、ヴェンディの様子を見に行く。
恐らく爆弾が仕掛けられてるか、確認しに行ったのだろう。
罠だと気付いても、可能性があるなら確認したい……ヴェンディの思考はこんなとこだろう。
僕は、人間の気持ちなんか理解したことないが、人間の思考回路は、数学の問題を解くようにに分かる。
なんたって、人間を70年演じてきたのだから。
「あれ?もう授業始まるよ。忘れ物かい?」
「はい、見つけたらすぐに行くので気にしないで下さい」
食堂には、掃除と片付けをする料理人が三人、探し物を探し回るヴェンディの計四人。
やはり、ヴェンディ=転生者=セイヴァーは確定だ。
「爆弾より僕を見つけるべきだよ、セイヴァー」
きっと明日にも、ヴェンディはもう一人の転生者を探すだろう。
* * *
翌週の能力基礎の実技の時間。
「能力を使った軽い組手をします!勝敗は、一回でも相手に剣を当てたら勝ち!審判は近くの人にお願いして下さい!では、二人一組になって下さい!」
実技の中で一番好きな内容だ。
一体一の真剣勝負……お互い、プラスチックの玩具のような剣を一つ持ち、能力を駆使して戦うという内容だ。
「よしヴェンディ、約束は守ってもらうよ」
「能力を見せるって約束か?良く覚えていたな」
「ホアイダ、審判を頼むよ」
「分かりました」
僕とヴェンディは、お互いに能力を知らない。
僕の能力は『能力を奪う能力』だが、今は『衣類を生物に変える能力』ってことにしてる。
つまり、今は衣類を生物に変える能力しか使ってはならない。
「準備は良いですか?」
「いつでも」
「良いよ」
だが、やるからには勝つ。
僕が使える生物は烏、犬、猫、蛇、あとは蟻とかちっぽけな生物だけ。
上手く能力を使って勝ってやる。
「能力組手、開始!」
開始と同時に、カーディガンを烏の羽根に変えて宙を舞う。
「へ〜、良い能力持ってんな」
飛び回る僕に向けて、ヴェンディが紙の手裏剣を投げる。
――何があるか分からない。
一瞬触ろうと迷ったが、すぐに避けに転じた。
手裏剣は、僕の背後に飛んで行く。
「解除」
背後に違和感を感じ、咄嗟に背後の何かを握った。
その何かは、玩具の剣だった。
――いつ投げた?今掴んでなかったら、僕の背中に刃が刺さって負けていた。
「やるじゃん」
「ニヤケやがって」
ニヤけるヴェンディに、剣を投げ返す。
ヴェンディは大きな紙を広げ、毛布を羽織るように、紙を羽織る。
そしてそのまま、地面に背を預け、紙と地面に挟まれた。
「刺さっ……てない?」
不思議なことに、剣は紙越しに地面に刺さり、ヴェンディの姿が無くなっていた。
「消えた?紙と地面に挟まってそのまま消えたように見えたが?」
――なかなか興味深い能力だ。さっき投げた紙の手裏剣とも何か関係があるのか?
「行け、犬」
ワイシャツを脱ぎ、犬に変える。
犬は、さっきまでヴェンディが居た場所に行き、紙を引っ張る。
紙の下には、ほんの少し切れ目が入った地面。
――この切れ目、これがヴェンディの消えた理由か?
「匂い追跡」
犬は鼻が利く。
犬を通じて、切れ目からヴェンディの匂いがするのが分かった。
「一体、奴の能力は何なのだ?」
紙の手裏剣、突然空中に現れた剣、紙と地面に挟まれ消えたヴェンディ。
謎が謎を呼ぶ能力に、僕は苦戦する。
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