第十三話『能力組手』

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第十三話『能力組手』

 宙に浮かぶ僕から、見えてる物は少ない。  ヴェンディが使った大きな紙、地面の切れ目、剣、犬、審判のホアイダ。  今ヴェンディには、勝利条件になる剣が無い。  地面に刺さった剣、あれがヴェンディの剣。  僕の剣は右手にしっかり持っている。 「次顔を見せたら、即剣を刺してやる」  ホアイダが、僕の方を驚いた表情で見ている。  だが、不思議と目が合わない。  まるで、僕のもっと上を見ているようだ。 「まさか!?」  気付いた時には、ヴェンディが僕より高い位置に居た。  僕より一回り大きい鷹が、ヴェンディの左手をがっちし掴んで、空を飛んでいたのだ。  避けるのが間に合わず、ヴェンディのかかと落としを食らう。 「ちっ」 「ちゃんと剣を持たないから〜」 「な!?」  気付くと、僕の剣はヴェンディの右手にあった。  どうやら今の一瞬で、剣を奪われてしまったらしい。 「どう避ける?マレフィクス」  落下する僕を、追いかけるように剣が飛んでくる。  でも、この体勢から避けるのは不可能。 「蛇!」  しかし、ネクタイを蛇に変えて、飛んできた剣を蛇に噛ませた。 「ナイスキャッチ!ヘビーな状況乗り越えたぜ!蛇だけに!」  蛇に剣を離させ、右手に持ち変える。  そのまま蛇の体を伸ばし、ヴェンディの足に絡ませる。 「掴んだ」 「いいや」  しかし、ヴェンディの体がクシャクシャになり、紙のような質感になって、地面に落ちた。  空には、鷹だけになる。 「紙になった、のか?」 「そう、俺の能力はあらゆる物を紙にする能力……そしてこの地面も」  ヴェンディが落ちた場所から、地面が紙になり、再びヴェンディが消える。  今確かに、ヴェンディが地面の中に潜り込んだように見えた。 「なるほど、地面を紙にして切れ目を付ける。そして紙の姿で切れ目から地面に潜って逃れる。そういうトリックだったのか」  よく見ると、地面のあちらこちらに、小さな切れ目がある。  ヴェンディはさっき、このどれかの切れ目から出てきて、鷹を使って空中を飛んだ。  と考えると、鷹も紙にして隠していたと思われる。 「取り敢えず、奴の剣を確保しなくては」  ヴェンディの剣を取りに行く為、一番初めの切れ目がある場所に向かって、素早く低空飛行をする。  剣は先程同然、大きな紙を挟んで地面に刺さっている。 「これを取れば奴に攻撃手段が無くなる!」 「来ると思ったよ」  しかし、切れ目からペラペラでクシャクシャのヴェンディが出てきて、僕より先に剣を手に取った。  そして、流れるように剣を僕の胸元目掛けて振るう。 「ヘヘッ!ペラペラでクシャクシャなその姿、似合ってるぞヴェンディ!」  しかし大きな紙を拾い、ヴェンディに被せて視界を奪う。  そして、ヴェンディの頭を紙越しに抑え、剣を振るう。 「解除」 「なにぃ!」  瞬間的に、紙が石レンガになり、剣を弾いてしまう。  そして、再び石レンガから紙になり、ヴェンディの剣が紙を貫通して、僕の腕に当たった。 「そこまでです、勝者ヴェンディ」  審判であるホアイダが、手を上げて勝敗を口にする。  結果は見ての通り……僕の負けで、ヴェンディの勝ちだ。 「マレフィクス、お前結構強いんだな。最後の方は結構焦ったよ」 「フンッ、本気出せば勝ってたさ」 「負けた奴は皆そう言うぜ?」 「今からデスマッチに変えて、戦いを続行しても良いんだよ?」 「良いよォ、勝敗は変わらないし」 「ダメです。デスマッチはしないで下さい」  ホアイダが、僕とヴェンディの間に割って入る。  そして、ヴェンディの剣を取り上げた。  にしても、勝ち誇るヴェンディを見ると殺意が湧いてくる。  本来の能力なら勝ってたし、魔法ありなら尚更勝ってた。  それでも、ルール上で負けたのは僕……授業と言えど、凄い悔しい。 「けど、二人共凄いです。能力を上手に使った面白い試合でした。私に能力が無いってのもありますけど、少し憧れます」 「いやいやどうも!」 「フンッ!僕本当は勝ってたし!今度は勝つし……。戻れ、犬と蛇」  犬と蛇をワイシャツとネクタイに、背中の羽根をカーディガンに戻す。  少し拗ねながら、元に戻った衣類を着る。 「お前のその能力は、服を動物に変える能力か?」 「衣類を生物に変える能力……見たことない生物と、人間には変えれない」  本当は『見たこと』ではなく『殺したこと』だけどな。  流石に本当のことを言うと、僕が犬や烏を殺したことがあるのを知られる。  別にいいけど、ヴェンディに言うと厄介なことになるから、ごまかしとく。 「君のあらゆる物を紙にする能力、詳しく教えてよ」 「良いぜ。戦いの中で使った能力の応用を、説明しながら教えてやろう。まず最初に投げた紙の手裏剣、あれは剣を紙にして作った物。物に触ると瞬間的に紙になり、三秒以上触れば折り紙サイズにすることができる」  つまり、最初の手裏剣は、折り紙サイズにした剣を投げた物ってことか。 「そして紙にした物は好きな時に解除できる。『解除』と思えばそれだけで元に戻る」  すなわち、投げた手裏剣を僕の上で『解除』することで、剣が降ってきたように思わせた。 「地面のような無限に広がる物は、触れてる長さで紙にする範囲が決まる。試合の話に戻すよ?手裏剣の次は、大きな紙を死角にし、地面を紙にして、紙になった場所を軽く切った」 「自分自身が紙になっていたよね?人間や魔物も紙にできるの?」 「できる。ただし、生物の場合は三秒間触らないと紙に出来ない。自分自身は例外だけどな」  自分自身を瞬間的に紙にし、地面に切れ目を入れることで、そこから地面を自由自在に潜れることも可能か。 「あの鷹は?」 「あぁ、俺のペット。名前はボブ、いつも紙にして連れている」 「お腹空いたり、死んじゃわないの?」 「生物が紙になってる間は、その生物の時間は止まる。つまりお前を紙にして100年後に解除しれば、お前は12歳のままってこと。勿論、自分自身は例外」  もしかしたら、鷹のボブ以外にも便利な生物を連れているかもしれないな。  馬とか象とか、あるいは魔物とか。 「複雑だけど、かなり強い能力だね」  ――僕の方が強い能力だけどね。用が無くなったらその能力も奪ってやる。 「お前の能力もかなり強いだろ。魔物とか習得したら俺勝てない自信ある」 「魔物……」  そういえば、魔物を殺してこの能力を強くしときたい。  この都市にはギルドがあったはず……確か13歳から登録可能。  もしギルドに登録し、依頼を受けることが出来れば、魔物が多く居る場所に行き、多くの魔物を狩れる。  そしたら、能力がより強くなる。 「今日何日?」 「え?確か五月二十九だったはず」  僕の誕生日は六月十三日、あともう少しだ。 「……皆誕生日は?」 「急にだな」 「プレゼント、準備したくてね」 「やっぱお前、悪い奴じゃないな」 「良いから言えよ」 「二月十二日」 「ホアイダは?」 「十二月六日です」  二人共僕より遅生まれ。  これならギルドに登録した後、二人にばったり会うことは無いだろう。 「僕は六月十三日、プレゼントちょうだいね?」 「お前、自分がもう少しで誕生日で、プレゼントが欲しいから聞いたんだな?」 「悪い?」 「いいや、むしろそういうの好きだぜ」  情報をより得る為、より強くなる為、ギルドに登録しよう。  来月が楽しみだ。
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