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第十四話『転生者達の認識状況』
*(ホアイダ視点)*
時間は少し遡る。
五月の初めのことだ。
「父様!友達が出来ました!」
「友達?それは本当か?どんな子なんだ?」
昨日、私はいつもの六人組に虐められていた。
最初は、マレフィクスも一緒に虐めていたのだが、何故か私を助けてくれた。
『結果的に助けた』と言ったものの、今日何事もなかったかのように話しかけてくれたのだ。
それがとっても嬉しかった。
「中性的で髪は肩くらいあり、目は真っ赤、見た目こそ怖いですが常識に縛られない自由人です」
「転入したって子か?」
「はい。マレフィクス.ベゼ.ラズルです」
「それは良いニュースだ。母さんにも聞かせてやりなさい」
ポム吉以外で初めての友達。
しかし、私はマレフィクスを疑っている。
エアスト村を壊滅させた『ベゼ』なのではないかと。
私をいじめから助けてくれた時、彼は鬼神の如く暴れた。
いじめっ子とは言えど、女の子に対しても容赦なく火を放った。
勿論、これだけで疑った訳では無いが、少し疑いが濃くなった。
しかし、村を破壊され、両親を殺されれば、あの様になってもおかしくない。
マレフィクス本人も『ベゼは僕が殺す』と復讐を胸に秘めていたし……。
それに怪しい点がある。
それは能力だ。
私は警察を通じて、エアスト村の全住民の個人情報を得たのだが、能力を確認したところ、マレフィクスは無能力だった。
しかし、マレフィクスは能力を持っていた。
『衣類を生物に変える能力』、彼の母親も同じ能力だ。
疑問だった。
三歳の時、まだ生物を知らなかった為、扱えずに黙っていたとも考えれる。
しかし、いつかは両親に言ったり見せたりするはず……私には何か隠しているように感じた。
それはともかく、一週間後また新たな友達が出来た。
ヴェンディ.ヒカイト.ディレン、美少年で正義感の強い優しい人だ。
マレフィクスとはよく軽い口喧嘩をするが、仲が悪いわけではない。
友達なれたのは良いのだが、ヴェンディの正体に確信が付いた時、衝撃だった。
結論から言おう。
ヴェンディは私と同じ転生者で、恐らくセイヴァーだ。
彼が『お米』を食べていることで疑いが深くなったが、確信が付いたのはその一週間後だった。
昼頃食堂の床に、日本語で『この食堂に爆弾を仕掛けた』と書かれた事件があった。
ヴェンディは明らかに、その文字に強く反応した。
ヴェンディ=転生者は確定……しかしセイヴァーという点は怪しくなった。
なぜなら、私とヴェンディ以外に、日本からの転生者が居るからだ。
食堂に日本語で文字を書いたのは私では無いし、ヴェンディは反応した本人だから書くわけない。
つまり、もう一人日本語を書ける者――第三の転生者が書いたというかこと。
私の予想では、ヴェンディの『お米』を見た者が、ヴェンディが転生者か確かめる為に書いた罠。
あの食堂は、一から三年の三学年が使用する場所。
そして、ヴェンディの反応を見た者……つまりヴェンディが文字を見た時に近くに居た者の中に犯人――転生者が居る。
私も、迂闊にボロを出せない。
第三の転生者はまだ私が転生者だと気付いてないはず。
転生者が私含め三人居ることは、恐らく私しか知らない……慎重に行動しなければならない。
第三の転生者が敵だった場合、取り返しのつかないことになる。
もし敵だったなら、それは高確率でマレフィクスだろう。
これは、今一番『ベゼ』の可能性が高いからだ。
確定していることは以下の通りだ。
①ヴェンディ=転生者。
②エトワール学校に転生者が三人(私含め)
③エトワール学校にセイヴァーが居る。
* * * * *
世界番号38、『ハノイ』。
この国は、非常に不味いしい国で、飢えた子供がたくさん居る。
お金持ちで豊かな者は、ほんの少しだ。
「きゃぁー!!」
「何やってんだよぉ!?」
先程まで、いつも通りに人々が道端に座っていた。
新聞紙の上に寝てた者も居れば、ひもじさを我慢して座り込む者も居る。
誰もがガリガリに痩せており、薄汚い。
だが、僅かな食べ物を分け合って笑合う姿には、この世のどんなことより美しさがある。
「誰か止めろォ!!」
しかし、それはさっきまでの話。
今は、一人の男が気が狂ったように、周りの人々を殺し回っている。
ボロい剣とナイフを持って、血を浴びて歩き回る。
逃げる者も居れば、死を受け入れるかのように動かない者も居る。
「いっそ皆死んだ方が良い!俺が皆殺して救ってやる!」
男はそう言い、足を引きずる女の子に近寄る。
「やめてぇ!!」
「死ねぇ!」
しかし、男の体はビクッと痙攣を起こし、動きが止まる。
「大丈夫かお嬢ちゃん?」
そこに現れたのは一人の少年だった。
白いフードを被り、目元が隠れるハーフマスクを身に付けて顔を隠しているが、とても優しい声をしている。
「大丈夫」
「ならママのとこに行きな」
「ありがと」
少年は、女の子が去ったのを見送ると、先程の男の前に立った。
「邪魔すんな!!」
男が剣を振りかざす。
しかし少年は、冷静に男の胸を人差し指で指し、魔法を唱える。
「雷魔法、グロム.レイ」
剣は少年の頭寸前でピタリと止まり、男は泡を吹いて倒れる。
「死にたいなら一人で死ね。周りを巻き込むな」
少年は、男の口に折り紙を詰める。
そして、近くに居た痩せ細った青年の場所まで足を運ぶ。
「この国は貧しい、食料が必要です。畑や井戸が必要……この紙の中に大量の食料があります。そしてこっちの紙には畑や井戸を作る方法が載った本があります。勿論それに必要な道具も」
少年はそう言い、二つの折り紙を青年に突き出した。
青年は不思議そうに、折り紙を見る。
広げたり裏を見たりと、折り紙を確認するが、折り紙には食料も本も入っていない。
ただの折り紙に入ってる訳ない。
「直接的に助けることはしません。私はチャンスが無い人々にチャンスを与えるだけです。貴方がこの国を想ってくれることを願ってます。本当に本当に助けが必要な時、私は危機を感じて来ます……ではさよなら。ディ.アトラス」
少年は、地図を広げたかと思うと、光を放って姿を消した。
周りの人々には、何が何だか分からなかった。
「兄ちゃんそれ?さっきの折り紙かい?」
「え?」
だが、先程の二つの折り紙は、食料が大量に入った袋と、畑や井戸の作り方が載った本とその道具に変わっていた。
「凄い!皆来なよ!皆で分け合おう!」
目も体を死んだも同然だった青年は、生き返ったかのように笑顔を見せた。
青年の周りに集まる人々も同様、希望を得た表情をしている。
*(ヴェンディ視点)*
俺以外に転生者が居る。
それが分かったのはつい最近、食堂の床に書かれた日本語で気が付いた。
しかし、あれは俺への罠……まんまと引っかかった。
きっと相手は、俺が転生者であることに確信が付いただろう。
それに俺は、セイヴァーとして始末した者の口に『じごとじとく』と、共通語で書いた折り紙を入れている。
共通語とは言えど、日本の四字熟語……流石にセイヴァー=転生者だとバレている。
つまり、ヴェンディ=転生者=セイヴァーだと知られたことになる。
相手が味方にせよ敵にせよ、早めに見つけて口封じをしないと手遅れになる。
ベゼとルーチェという厄介者が居るのに、また厄介者が増えた。
だが、悪いニュースだけでは無い。
使える魔法が増えたというビックニュースもある。
地図を見れば世界の危機的状況が分かる魔法。
地図が地域別の細かいような地図なら、細かい具合で危機的状況が分かる。
この魔法を使って、警察が捜査する前に殺人犯を始末することができる。
さっきも、多くの被害が出る前に殺人犯を始末できた。
だが、この魔法でこの都市の状況を見た時、悪い状況だと分かった。
状況は信号のように色で分かるのだが、この大都市メディウムは黄色だった。
青は安全、黄色は危険が起こる前、赤は危険。
つまり、この大都市メディウムは、いつ赤になってもおかしくない状況なのだ。
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