第七話『競走の相手』

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第七話『競走の相手』

 専門学校に入学したのは四月の秋。  それから一ヶ月が経ち、五月に突入した。  専門学校は『初級』、『中級』、『上級』、『特級』と、四つのクラスに別れており、その生徒の学力に合ったクラスに入る。  クラス替えは一年毎にある為、クラスが上がったり下がったりはする。  ちなみに、俺が通ってるのは専門学校は『エトワール学校』。  そして、俺は特級クラスだ。  魔法こそ苦手だと思われているが、それ以外は完璧な奴だと思われている。 「ほわ〜」  学生ヴェンディとして生活しなればならないし、セイヴァーとしても行動しなくてはならない。  この二重生活は正直楽ではない。  眠い日はしょっちゅうだ。 「魔法基礎の時間です!魔法を使った軽い組手をします!勝敗は一回でも魔法を当てたら勝ち!審判は近くの人にお願いして下さい!では、二人一組になって下さい!」 『魔法基礎』と『能力基礎』だけは全クラス合同で授業をする。  だから知らない人もたくさん居る時間だし、特級クラスには視線がより集まる。 「ヴェンディ!俺と組もうぜ!」 「ダメ!ヴェンディは私と組むの!」  皆俺と組みたがる。  純粋な好意で俺と組もうとしてる人も居るが、ほとんどが俺が魔法を一つしか使えないから、俺と戦いたがっている。  特級クラスはエリート集団だ……組手で勝つことは成績を維持することに繋がる。  誰だって勝ちたい。 「え〜、皆俺が弱いって分かってて組みたがってるでしょ?」  この魔法組手は、入学して初めてする授業内容だ。  誰が強いか弱いか、まだ分かりきっていない。 「ん?あいつ一人ハブられてる?」  どこのクラスかは分からないが、ハブられてるような子が居た。  白髪で眼帯を身に付け、なぜか小さい白いクマのぬいぐるみを手に持っている。 「あぁ、あいつ知ってる。この学校で有名人だぜ?初級クラスのホアイダ.ルト.ユスティシー、誰もが認める変わり者。学校にぬいぐるみ持ってきてるし、男なのか女なのか良く分からない奴。友達は居ない……良くガラの悪い奴に絡まれてるのを見かける」 「ふーん、じゃああの子と組もう」 「やめとけって。あいつ、頭は悪いが魔法は天才的だったはずだ」 「なら尚更戦いたい。気になってしまった」  特級クラスの奴らに負けるなら、こっちに負ける方がマシだ。  それに、何故だか気になって仕方ない。  昔から、一人の奴を見て見ぬふりは出来ない性格だったからか分からないが、話しかけらずにはいられない。 「お前、ホアイダだろ?俺はヴェンディ。組手の相手になってくれないか?」  近くで見ると可愛らしい奴だ。  白い髪はオシャレにピンで飾られてるし、耳には目立たない薄いピンクのイヤーカフが付いてる。  瞳は宝石のような輝きを放つ水色で、左目は白い眼帯で隠れている。  首や頬には湿布が貼ってあり、肌は色白い。  それに、妙な色気もある。 「……こちらこそ、お願いします」  ――おぉ……声も可愛らしい。  それに思ったより謙虚な奴だ。  こんな可愛らしい奴なのに、友達が居ないなんて信じられないな。 「勝敗はどう決めるのですか?」 「え?魔法を一回でも当てたら勝ちって先生言ってたけど」 「なるほど、承知しました」  悪い奴では無さそうだが、変な奴であるのは確かだ。 「審判やろうか?」 「あぁ、頼むよ」  近くに居た人が審判を希望してくれた。  場所がグラウンドのような広い場所だった為、皆から離れて組手をすることにした。 「じゃあ、行くよ?魔法組手、開始!」  魔法は得意だと聞いたが……どれほどのものか確かめてやる。 「雷魔法、グロム.レイ」  先手必勝。  ホアイダ目掛けて、指から雷を弾丸のように放つ。  魔法は、魔法の名前を詠唱として唱えないと発動しない。  つまり、ホアイダに魔法を使ってこの雷を防ぐ時間はない。  しかしホアイダは、魔法に頼らず、体勢を仰け反って避けた。  そしてそのまま地面に背を預け、仰向けになる。  ――脳みそバカなのか?地面に寝っ転がったらもう避けれないだろ? 「雷魔法――」  俺が魔法を唱えると同時に、ホアイダの手から放たれた水の塊が俺を吹き飛ばした。 「ぼぁ!?」 「勝者ホアイダ!」  なぜ?ホアイダは一度も魔法を唱えていない。  なのに手から魔法を放ってきた。 「なぜ!?お前は一度も詠唱を唱えていないのに、魔法が出た!?何故なんだ!?」 「私、詠唱無しで魔法を扱えるのです。もしかして、内緒にしてた私は……反則負けですか?」  まさか、無詠唱で魔法を扱える奴が居るとは思わなかった。  少し自惚れていたのかもしれない……自分は天才だと。  やはり、世の中には本当の天才が居るらしい。 「いや、反則じゃない。お前の勝ちだよ」 「どうも」  ホアイダはペコッとお辞儀をし、その場を去ろうとした。 「待て!」 「はい、待ちますよ」 「次の魔法組手も俺と組まないか?」 「ぜひ、お願いします」  俺は攻撃の魔法が一つしか使えない。  それでも身体能力や策略で補えると思っていた。  屈辱……相手は一つしか魔法を使っていないのに…。  * * *  家に帰って、いつものようにパソコンを確認する。  そして、劣化版ツ〇ッターこと『シノミリア』を開く。 「ルーチェから個人チャットにメールが来てる」  個人チャットをメールと呼ぶ者も居る。  なのでここでは『メール』と呼ばせてもらう。 『エアスト村の犯人は魔物の襲撃でないと思います』  これはメールの一文だ。  この一個前に、俺はエアスト村を破壊した犯人、通称『ベゼ』が魔物の可能性を指摘した。  だからその返事が帰って来た。  ルーチェとは解決事件について、情報を共有することがある。  これはお互いがお互いの利益になるし、『未解決事件の犯人を見つける』という目的までは一緒だからだ。  しかし、最後の方はいつも互いに駆け引きをしている。  俺からして見れば、出来るだけルーチェから情報を得て、ルーチェが犯人を捕まえる前に、探し出して犯人を殺したい。  出来ることなら犯人の正体まで喋らせたい。  ルーチェから見れば、出来るだけ俺から情報を得て、俺が犯人を殺す前に捕まえたい。  出来ることなら、情報だけを得て、俺には犯人の手がかりを与えたくない。  俺に犯人の正体を知られれば、逮捕する前に犯人が死ぬからだ。  しかし、はっきり言って、いつもルーチェの方が一枚上手だ。  それに情報なら俺以上に持ってるし、探偵だけあって推理力が的確だ。  俺は、死体から得た記憶の情報を使って対抗するが、いつも一杯食わされる。  そして、今回のターゲットはエアスト村を破壊した犯人ベゼ。  奴が残した手紙によれば、奴はまだまだ犠牲者を出すつもりだ。  それは避けたいが、エアスト村の住民は焼け焦げていて死体は残って居なかったらしい。  今回はまだまだ手がかりが少ないし、俺には武器になる情報が無い。  今のとこルーチェが有利だ。 『なぜ魔物で無いと思う?』  返事を打ってから二分後、返信はすぐに来た。 『魔物は基本、複数で動く生き物です。人間も複数で動きたがりますが(笑)。しかし、現場や現場付近の地面は、魔物の足跡や魔物の形跡は無かったようです(調べました)。私の考えでは、犯人は人間にせよ魔物にせよ単独犯、または少数だと……そして焼け焦げた村から見るに、火属性の魔法を使う者の可能性が高いです』  なるほどな……今回も参考になるな。  火属性の魔法を使う者ってのは、警察も言ってた。  それに、単独犯ってのも一理ある。  ――ピロリン!  一分後、音と共にメールが来た。 『実は犯人の目星は付いてます。あとは証拠が必要なのです。もし、セイヴァーが人殺しを辞めるなら、目星の付いた人間を教えますよ(笑)』  ――なんだと?ルーチェの奴、ハッタリか?  気になりはするが、挑発に乗る必要はない。  それに俺にとってもルーチェにとってもベゼは敵だ。  捕まるにしろ、殺すにせよ、ベゼを見つけることが大切なのだ。  どちらにせよ、いつも通りルーチェとは競走になるな。
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