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「チッチッチ。甘いわ甘い、大甘よ」
「イイ男がイイ旦那とは限らない」
「世間的に活躍している人ほど家庭を顧みない」
しかしながら、モカルカの切り札はチッチッチシスターズによってぶった切られた。
ちょっと聞き捨てならないけど。その統計の根拠を教えて欲しい。
「何より、モテる男は浮気する」
「追えば逃げるが人の性」
「つまり。イイ男は観賞用。これこそがイイ女の新常識よ」
「「な、なるほどぉ、…」」
チッチッチシスターズの圧に屈したモカルカが感嘆の声を上げ、
「要するに」
「ナナセくんみたいな完璧イケメンは拝むに留めている私たちのような一般庶民こそが真のイイ女ってことですね!?」
「その通り!! 出来る女は嫌いじゃないわ」
シスターズと手に手を取って一致団結、自己肯定感を高め合うと、
「で? 次のライブ公演チケット、いつ優先入手できるの?」
「嫁権力で奪い取って来いや」
一斉にその手を私に差し出して、
「あああ、ナナセくんの神ギターを生で見たいっ」
「神秘なるご尊顔をこの目に焼き付けたい」
「類まれなる音の世界に骨の髄までつかりた~い」
ただのファントークを炸裂させた。
「…お先に戻りまーす」
本日のランチ、サバの味噌煮定食がのっていた食器トレイを手に、いち早く立ち上がると、
「あああー、待ってよ、つーちゃん」
「ナナセくんのライブチケット入手できないんだよ」
「販売数秒でソールドアウト。ネットが繋がった時には終わってるんだよ~」
悲愴な声を上げながら、モカルカとシスターズが後から付いてきた。
「さぁ、午後も頑張って働こ~」
「あああー、つー様。お恵みを~」「何卒、何卒、お情けを~~~」
いやいや、知らないし。
私のななせを顔担当の浮気男とか言っちゃって。(言ってない)
私は別に、ななせがイイ男だから結婚したんじゃないもんね。
ななせが。ななせだから。
「ハレルヤ、つぼみ」「つ~ぼ~みっ、ハイっ」
「やめなさい、あなたたち」「嫁の同僚がアホだってバレるでしょ」「…いや、誰に?」
モカルカとシスターズたちに囲まれ、アホらしいやり取りを繰り広げながら社員食堂を後にしてそれぞれの持ち場に戻る。私とモカルカは工場2階の総務部と製造部へ。シスターズたちは工場1階の作業室へ。
この春から私が勤める天照ライフ食品は、食と健康から幸せを創造することを理念に、食品の製造から宅配まで幅広く請け負う食品会社だ。
西部工場製造部に配属された私は、献立作成から仕入れ管理、商品確認、講習担当等、様々な業務に取り組ませてもらっている。
雨宮つぼみ、22歳。
ピッカピカの新社会人であります。
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