05.なみだ色ユアワームス

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さわさわ。やわやわ。 頭を。髪を。撫でられている。 優しい手。滑らかな指。大きな手のひら。 愛おしむように。慈しむように。 さわりさわり。やわりやわり。 繰り返し。繰り返し。 ただ、触れられているだけなのに。 涙が出そうなほど心地いい。 温かくて安心する。気持ち良くて癒される。 柔らかい手。確かな手。かけがえのない手。 救われる。再生する。励まされる。 大丈夫。この手があれば、何度でも立ち上がれる。 大好きな、… 「…なな、せ、…?」 目を開けると、この世のものとは思えないほど美しい顔がこっちを見ていて、綺麗に澄んだ瞳と目が合った。神秘的な瞳に吸い込まれるように魅せられて、私は天に召されたのかなと思った。 色々あったけど、まあそれなりに誠実に生きてきたつもりだから、天国に行くことが出来たのかも、… 「バカ、…っ、お前っ、…っ!!」 私を見つめる瞳があんまり綺麗で、見惚れてしまった。その瞳に映っているのが嬉しくて、思わずへらっと笑った私を見て、目の前のその人はひどく怒っているような、それでいて泣いているような顔をすると、息も出来ないくらいぎゅうぎゅうに抱きしめてきた。 …苦しい。 苦しくて、温かくて、切なくて。胸が締め付けられる。 懐かしくて、優しくて、恋しい。ななせの匂いがする。 「…ななせ」 やっぱり天国かな。ななせの腕の中にいる。 どこよりも。何よりも。一番行きたいところ。 「お前、バカっ!! お前がいなくなったら、俺は、…っ」 ななせの温もりを感じる。 冷たくて暗い底なしの深淵で、もう何も感じなくなっていた身体と心に、ななせの温度がゆっくり沁み入って、じんわりと隅々まで広がって、深く満ちていく。 違う、天国じゃない。ななせを感じる。 温かい。生きてる。触れてる。 柔らかい。優しい。愛しい。 「…大好き」 ななせに触れる身体がある。ななせを呼べる声がある。 ななせを映す瞳がある。ななせを抱きしめる腕がある。 ありがとう、神さま。私をここに、戻してくれて。 「俺は、…っ」 私を抱きしめるななせの腕の強さが愛しい。 震えるななせの声音も。少し早い心臓の音も。 ななせを形作る全てが愛しい。 「ななせ、大好き」 やっぱり私は、その気持ちだけで生きているんだ、… 「…大好き」 「うん、…」 馬鹿みたいに繰り返す私を、ななせはもう一度ぎゅうっと強く抱きしめると、額に額を付けて真正面から私を見た。 「…知ってる」 ななせの綺麗な瞳に、涙の膜がゆらゆら光って私を映した。 …そこですうっと我に返る。 物っ凄くひどい顔をした人が映ってますけど!? 殴られミイラ? パイナップルお化け!? 「なんだよ、ななせ。俺も好きって言わなくていいのか?」 衝撃の顔面に硬直していたら、ななせの後ろから白衣姿の侑さんが現れて、優しい顔で私とななせを見た。 「つぼみが目覚めて良かったな、ななせ。いや、ホント大変だったよ。お前がいないと生きていけないって泣いて、…」 「…言ってない。泣いてない」 ななせがぷいっと顔を背けて私から離れた。 私を包んでいたななせの温もりがなくなって寂しい。 「まあ、お前が助かったのはななせのおかげだけどな。電話で異変に気づいて飛んでって。あの極寒の冷凍室で、半裸でお前に体温与えて、救急車でもずっと離れなくて、…」 「うるさい、黙れ。死ね」 ななせが侑さんに体当たりして口を塞ぐ。 ななせがお兄ちゃんにじゃれついている弟のように見える。まあ、実際この2人は兄弟なんだけど。 その平和な光景を見ていたら、じわじわと記憶がよみがえって、自分の状況を理解した。 ここは多分、侑さんの病院で、私は治療を受けて寝かされている。手足の感覚もあるし寒くないし苦しくもない。身体も普通に動かせる。殴られた顔も治療してもらったから、ガーゼと包帯でぐるぐるになっているんだろう。口の中や顔の表面に腫れた違和感があるけど、痛くない。腕に点滴が繋がっているから、鎮静剤を打っているのかもしれない。 そうか。私、助かったんだ。 あの恐怖の冷凍室から助けてもらったんだ。
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