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次に目覚めた時。
まだななせと手を繋いでいた。
それで安心して、またすぐに眠りに落ちた。
その次に目覚めた時も。
やっぱりななせと手を繋いでいた。
何だかくすぐったくてそわそわして、すぐに目をつむって寝たふりをしてしまった。でも全然眠れなかった。妙に意識して呼吸はおかしいし、無駄にドキドキして指先が熱い。繋いだ手から気持ちが全部伝わってしまう。緊張して、嬉しくて、少し切ない。
ななせは、いつまで手を繋いでいてくれるんだろう。
その次の次に目覚めた時も。
なぜか、まだ繋いでいた。ちょっと信じられなくて指先に力を込めたら、
「ん、…?」
寝ぼけ眼のななせが身じろいだ。ななせはベッドの脇に座りながら寝ていた。ずっと、ついててくれたんだ。寝ながら繋いでくれてるんだ。愛しくて、胸がきゅうってなる。
そっと、そうっと、繋いだ手に力を入れたら、無意識にななせも握り返してくれた。
嬉しくて、切なくて、息が詰まる。
もう一つの手で胸を押さえて、ゆっくり息を吐いた。
その次の次の次も。
やっぱりななせと手を繋いでいた。
さすがに驚く。ずっと繋いでる。いや。ホントにずっと繋いでる。最初の言葉通り、ななせがずっとここにいる。
「…ななせ。何でいつもいるの?」
「はあ? なんだよ、嫌なのか?」
聞いたら、ちょっと不機嫌そうに問い返された。
別に、嫌とかじゃない。嫌なわけない。ただ、純粋に疑問なだけで。だって、さすがに、ずっと過ぎる。
「…ななせ、仕事は? ご飯は?」
「…ちゃんとやってる」
…嘘じゃん。
ななせはふて腐れたように答えるけど、大変に嘘っぽい。
ななせは今をときめく人気アーティストなので、なかなかハードにスケジュールが詰まっている。こんなところでぼけっとしている暇はない、はず。
加えてななせは偏食だから、体調を崩したりしないように、ちゃんと栄養あるご飯を食べなくちゃいけない。でも絶対食べてない、気がする。
と、いうことを思いながらななせを見ていたら、
「…なんだよ。文句あるなら、お前が早く帰ってこい」
ちょっと拗ねたみたいにななせの口が尖った。
え、…
不意打ちで胸が射抜かれる。
なにそれ、可愛い。
「だいたいあの家、誰もいないし、つまんないし、枕もねえし、…」
唇を尖らせたままぶつぶつ言ってる可愛いななせをこっそり観察していると、
「つぼみがいないと何も手につかないんだよ、ななせは」
病室のドアが開いて、侑さんが現れた。
「は? 適当言うな」
「素直じゃないよな、ななせは。ツンツンしちゃって。お前の方がよっぽどウニみたいだぞ」
「…うざい」
侑さんがニヤニヤしながらななせの頬をつついて、ななせがそれを速攻で振り払う。
「そうそう、つぼみに面会客」
そんなななせを巧みにかわしながら、侑さんが後ろを振り返った。
「お休みのところすみません」
「お邪魔します」
病室の入り口から姿を現したのは、スーツ姿の男性二人で、丁寧な口調で頭を下げてくれたけど、その場を緊迫させる妙な迫力があり、笑顔なのにこっちを見つめる目はまるで笑っていない。
なんか、…怖い。
思わずななせの手を握りしめると、ななせは寄り添うように私に近づいてから、しっかりと繋ぎ直してくれた。
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