344人が本棚に入れています
本棚に追加
病院の駐車場を抜けて、裏門から道路に出る。
街灯が照らすだけの薄暗い角を曲がった先に、一台の黒いバンが停まっていた。メッセージに示されていた場所。他に人気はない。私を呼びだしたのは、あの車で間違いないだろう。
「…4分57秒。3秒前って随分ギリギリね」
近づくと助手席のパワーウインドウが開いて、サングラスをかけたブロンドヘアの女性が煙草の煙を吐き出しながら鼻で笑った。
…あれ。この人どこかで。
「乗って、お姉さん。今更躊躇することもないでしょ」
女性に促されるのと同時に、バンの後部座席のスライドドアが開く。
3列シートの後部座席に人影はなく、乗っているのは、無言で煙草を吸いながら運転席に座るサングラスの男性と、助手席の女性だけだと思われた。
乗ったら、もう逃げられない。
足元から恐怖が這い上がる。この得体のしれない人たちが怖くてたまらない。それでも。
「…あの。ななせを救えるものって何ですか。あなたたちが関係者だって証拠は? それを先に見せて下さい」
奥歯を噛みしめて、助手席の女性を見据えた。
最悪でも刺し違える。目的さえ遂げれば、後はどうでもいい。ポケットに入れたスマホの録音機能もオンになっているしね!!
「…フフ、震えちゃって。ナナセのために一生懸命で、健気ね~え?」
助手席の女性はバンの窓から乗り出して私を見降ろすと、
「アタシ、そういうの大っキライ」
煙草の煙を吹きかけた。
「う、…っ、…っ」
一応マスクはしているけど。反射的にむせた。
受動喫煙は主流煙より害が大きいんですけどぉ!? 何この人、性格わっる!!
「Hey, Shake it! Conspicuous!」
「…分かったわよ。はい、これ」
運転席の男性に何やら咎められて、女性は渋々という感じで指先に小さく光るものを摘まんで見せた。
え、なに、…
「…指輪?」
シンプルなリングに愛らしいダイアモンドが光る。
オリジナルデザインで。凄く。物凄く。見覚えがある。いつ見ても優しい幸福ととめどない愛しさで胸が締め付けられる、…
「…ななせの?」
イギリスで列車事故に遭った後から、ななせは指輪をしていなかった。
それは離婚の意志表明だと思っていたけど、そうじゃなかった? ななせは指輪を持っていなかった? …盗られてた??
「納得した? 返してあげるわ。ナナセはもう、要らないみたいだけどね」
女性は指輪をポイっと私に投げて寄こすと、タブレット端末を持ち出して指先で画面を操作し、
[disclosed]
何かサイトに映像をアップしてみせた。
最初のコメントを投稿しよう!