05.なみだ色ユアワームス

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私は投げられた指輪を慌てて受け止め、急いで確認してみた。 刻印されている名前。左手にはめている私の指輪との整合性。煌めき。唯一無二のデザイン。…多分。間違いなく、ななせの指輪だ。 「ナナセのアカウントを開設した時の証拠動画よ。ナナセは一切関係していない」 それから女性が差し示す公開されたばかりの映像に目をやる。 画面上で再生された映像には、薄暗い部屋の一角でパソコンを操る手元が映っており、周りに何人かいるらしく何語か分からない言葉が飛び交っている。ななせの指輪らしきものをスキャンしているような様子もある。ズームで映し出されたパソコン画面が目まぐるしく動き、その途中に、[Nanase Amemiya] [completion]の文字が見える。 「これで無能な日本警察にもナナセの意思とは無関係に作成されたってことが分かるでしょ、さあ乗って」 …うん、まあそうか。公開されたんだもんね。 これを警察の人が見たら、なりすましってことが分かるよね。つまりこれは、この人たちの犯行声明の一種になるのかもしれない。 と思いながら、素直にバンのスライドドアに足を上げかけて、 …待てよ。もう証拠動画が公開されたなら、私がこの車に乗る必要はないのでは。指輪も返してもらったしね? という、もっともな考えが頭をよぎり、一瞬動きを止めた私の頭に何か固いものが押し当てられた。 「Stop! ポケットの中で健気に録音しているものは置いて行ってもらいましょうか。ああ、逃げようなんて考えないことね。アタシこう見えて気が短いの」 見たまんまじゃん。などと突っ込んでいる余裕はない。 なんで分かったん、エスパーじゃん? などとふざけたら撃たれる。 眼球だけを動かして頭に当たっているものを見た。 拳銃? なんて、見たことも触ったこともないわけで。それが本物か偽物かなんて知る由もないわけで。ただもう、猛烈な恐怖だけが募る。この人たちは私とは全然別世界に生きている人たちで、人の命とか想いとかどうでもいい人たちなんだと悟る。 大人しくポケットから取り出したスマホを地面に置いた。 私にできる唯一の命綱を失ってしまった。…でも。 ななせの指輪を握りしめて、震える足でバンに乗った。 即座にオートドアが閉まり、ロックされる音がした。 「フフフ、イイ子ね。イイ子はそんなにキライじゃないわ」 助手席の女性が満足そうに拳銃らしきものを降ろして前を向くと、バンが音もなく動き出した。車内は煙草の煙が充満していて、マスク越しでも咳き込みそうだった。
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