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物凄く、寝覚めの良い朝だった。
すっきり。さっぱり。爽快。
あったかくて柔らかくて肌触りの良いものにたくさんスリスリして、スリスリされて、包まれて撫でられて、何だかすごく満たされて、…
「…暑い」
充実感満載で目を開けると、今日も今日とて最高に麗しいななせが私を見ていた。
「…重い」
しかしながら、その吸い込まれそうに美しい瞳が大変お疲れになっていて、
「…とりあえず、降りろ」
図らずも全力で密着していたらしい私は、ななせからべりっと剥がされ、床に転がされた。
…何するの。
恨みがましくななせを見上げる。
せっかく2人で迎えた初めての朝!!
だったのにっ
「…迎えてねえ」
どうやら迎えてないらしい。
寝起きの気だるさというにはどうにもななせのお疲れ具合が半端ない。
「…お前、酔ったらいつもああか?」
ああ、とは。
げんなりした様子のななせに聞かれて、改めて自分の行いを振り返ってみる。
昨日は無事退院して、ななせとお買い物して、一緒にご飯食べて、乾杯して、幸せだなぁって、…
「…しじみ、美味しかったよね?」
辿った記憶を引き出すと、ななせが盛大にため息をついた。
「…覚えてねえんだ?」
なっ、ななせの目が、責めてるっ
無言で私を非難しているっ
え―――、何した、私―――っ!?
「俺の記憶がないとか、責めらんねえな、お前」
ちょっと皮肉気な笑みを漏らされて焦る。
待って待って。落ち着いて。思い出せ、思い出すんだ、つぼみっ
「…きっ、今日、ドライブデートっっ、…だよね?」
焦りに焦って出てきた記憶が、夢みたいに楽しみな記憶だったんだけど、本当に夢だったような気がしてきて自信がなくなる。
記憶が曖昧って、不安なものなんだね、ななせ。
「…そうだな」
ため息まじりに呟いたななせが、髪をかき上げながらベッドから立ち上がる。
「…だから。ヤリ倒さなかった俺に感謝しろよ?」
きゃああ―――、寝乱れてるっ
ななな、なんか、はだけてるっ
いい、色気がだだ漏れてて、鼻血に悪いっっ
ていうか、なんかっ
「…付いてる?」
直視できないのに目を逸らすことも出来ないジレンマ。で、ガン見して気づいた。はだけた胸板にキキキ、キスマーク、みたいな、…っ!?
「お前も付いてるよ、エロウニ」
気だるげセクシーダイナマイトななせが、私を覗き込んで頬を摘まんだ。
「お前、俺がいないとこで飲むなよ?」
近い。尊い。息が出来ない。
ななせに目も鼻も息も奪われて、固まる。
「車取ってくるから、出かける用意しとけ」
ななせはそんな私の髪をくしゃっと撫でると、部屋から出て行った。
尊死―――っ
こっ、これは真面目に鼻血の危機。ただ寝て起きただけなのにカッコいいとか、ななせは本当にずるい。
床をのたうち回りながら、落ち着け自分と言い聞かせる。
落ち着いて、思い出そう。私、昨晩何した?
久しぶりに飲んだし、危機を脱した解放感というか、怪我も癒えて、退院出来て、浮かれて酔いが回った感はあるんだけど、…
『ななせ、大好きぃぃー、あのねー、どこが好きかって言うとー、まつ毛の先が丸まってるとこと、足の爪がきれいなとことー、声が甘く掠れるとことー、お迎えで相合い傘してくれるとことー、…』
『…分かったから離れろ』
『やだやだ、絶対離れない。なんでそんな別れたがるかな?』
『…別れたいっつーか、俺といるとお前また、…』
『ななせは私のなんだからね! 全部くれるって言ったもんね。ここもここも全部ぜーんぶ、私のって印つける―――っっ』
『ちょ、…バカ、お前。今日はダメだって、…おいっ、つぼみっ』
…なんか。
すごい記憶出てきた。これ、現実なら軽く死ねる、…
えええええ―――、…
誰か嘘だと言って!
とりあえず、お風呂場に直行して頭から冷水をかぶってみた。ら、記憶がより鮮明になった。
…あれ。私が付けたんだ、…
浴室の鏡に映る自分の身体にも、際どいところに跡がある。
『つーかーなーい―――っ』
『…こうやんだよ、バーカ』
…何してんの、私―――っ
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