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青い空。白い雲。そよぐ風。
初夏の澄んだ空気を高速で駆け抜けるスタイリッシュな銀色ボディのSUV。
そして、
「…見過ぎじゃね?」
洗練された内装の運転席でハンドルを握るななせっ
…すみません。鼻血吹いてもいいですか。
「だだだ、だって! ななせが運転してるっ!」
「そりゃするだろ、免許取ったんだから」
運転するななせっ、恐ろしくも、空恐ろしくもかっこいいっっ!!
気だるげに首を傾げたり、サイドミラーを確認したり、華麗にハンドルを捌いたりするななせを目に焼き付けた。
高速道路は渋滞もなく順調に進み、下道に降りると心なしか潮の香りが強くなった。カーオーディオからは軽快な夏ソングが流れ、ななせの緩いハミングが重なる。
鼻歌ななせっ レアっ レアショット! 撮っていいですか。
鼻血注意で鼻を押さえながら、スマホを繰り出し、レアななせを連写していたら、
「…撮るなら、お前も入れ」
ななせの左腕が私の頭を抱えて、ふいに引き寄せられた。
ううう、運転中でしょお―――――っ
急激にななせに近づいて、動揺を隠し切れず、ツーショット写真は私の鼻の穴が異様にアップになってしまったけど、ホワイトとネイビーのコーディネートは図らずも、…あ。図ったのかな? ななせとお揃いコーデになっている。横顔で微笑むななせは楽しそうで、私を引き寄せている腕が甘い。頑張って巻いた髪がふわりとなびいて、下瞼に入れたグリッターが密かに煌めいて、ラブラブデートみたいな空気が出ている。
…好き。
スマホに納めたばかりの画像を見ながらにやけていたら、
「…な、俺。どんな風にお前にキスしてた?」
「えっ、…」
ななせの低くて甘いかすれ声が心臓を直撃して、反射的にななせに振り向くと、
ちゅ。
意識する間もないくらいわずか、一瞬の間にななせの顔が近づいて、柔らかく潤ったななせの唇が私の唇に触れた。
「…こんな?」
信号が変わって車を発進させたななせが前を向きながら口元を悪戯に緩める。
ちゅ? こ、…? ちゅ? こん、…??
余りに不意打ち過ぎて、何が起こったか分からない。
いや、分かる。
ななせの感触が生々しく反芻されて、歓喜な衝撃に繰り返し襲われる。
キ、…キス。
ななせっ、キスっっ
「あ、海が見えるパンケーキとフルーツの店だって」
心臓が壊れそうで、いっぱいいっぱいで、硬直したままななせから目を離せずにいると、何事もなかったかのように涼しい顔をしたななせが道沿いに佇むログハウス風のお店を指さした。
「入ろうぜ」
そんな。そんな普通の顔して。パンケーキとかっ
全身が心臓になったみたいにバクバクしてうるさい。身体中が熱い。
思いがけない歓喜に泣きそうになっていたら、ななせが左手の指の背で私の頬を優しく撫でた。
「…真っ赤」
…死にそう。
もう胸がいっぱいで、パンケーキなんて絶対食べられないと思っていたのに、車から降りてななせに手を引かれながら入ったログハウス風のお店は、内装も明るいカントリー調で心が躍り、コバルトブルーな海を背景に潮騒を聞きながら、芳ばしい匂いと麗しのななせの傍らで食べるパンケーキはしっとりふわふわなのにさっぱりしていて、
「…おかわり下さ―いっ」
驚くほど食が進んだ。
「…お前ホント、よく食うよな」
「だって。彩やかフルーツパンケーキは美味しかったけど、小豆ホイップパンケーキも気になってたんだもん。私が大食いなんじゃなくて、ななせが少食なんだもん」
「…へいへい」
しかしながら、広がる海岸線の絶景と美味しいパンケーキを堪能していたら、普通に満腹中枢が抗議してきた。
「…お腹いっぱい」
ゴリラは鼻息だけで、胃袋は成人女子並みだったらしい。食べ切れない。
「…自由か」
呆れ口調でつぶやくと、ななせが食べ切れなくなってしまったパンケーキを代わりに食べてくれた。
「…甘い」
「…ごめん」
ハンドルを握っていたななせの大きな手が私の頭にのって、ポンと弾む。
「…美味しかったな」
「うんっ」
…ななせ。大好き。
お腹いっぱいで胸もいっぱいで。
どうしよう。
好きが溢れてななせが滲んだ。
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