ツンおめ

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***** 「……もう、引き際……なのかなぁ……」 明日の英語の予習をしながら、思わず呟いた。 まさか、彼女は部活動でも奴と一緒にありたいと思うなんて。 彼女が家庭科部であることを好ましく思っていた。 昔から、料理も裁縫も彼女は得意だった。 中学一年の時には、取れてしまっていた制服のボタンを縫い付けてもらったことがある。……彼女には造作もないことだったかもしれないが、あの時俺はたしかに惚れ直した。 うちの中学の野球部は、そこそこ強い。 顧問の先生だって知っている、結構強面の頑固親父タイプだ。 その先生を説き伏せたというのだから、彼女は相当に彼女自身をアピールしたのだろう。 その頑張りは、素直に称えたい。 山本のためにというのは気に入らないが、彼女の努力は凄いと思う。 つまり、彼女の原動力はなんだかんだで山本なのだ。 山本の目が彼女を追うことはないように、彼女の目が俺を追うこともない。 それでも、彼女は山本が好きなのだ。 ……俺は……そんな彼女を見ているのは、もうかなり辛いというのに。 『おめでとう』 ようやく、俺は彼女の本気っぷりを理解したのかもしれない。 俺が思うよりも彼女は強く、彼女自身に真っ直ぐだった。 彼女には敵わない、と痛感させられた。 ……なんで、そんな……叶わない恋に一生懸命になれるんだ。 そんな彼女は、傍からみたら馬鹿げていると今まで思っていた。 しかし今日、もういっそ清々しいと思えてしまった。 せめて叶わない恋でも、俺だけは応援してやりたい。 そう心から思えたから……いつもなら山本の話題になるとギンギンの嫌悪感を示すのに、今日はそんなドス黒い感情は湧いてこなかった。 ……頭に入ったのだかは分からないが、気がつけば英語の予習は明日の分どころか。 単元の終わりまで進んでいた。
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