見守られて

3/22
前へ
/172ページ
次へ
「忍者になりたかったとは、初めて聞いたな」 「今初めてなろうかなと思ったから、言ってなかったわ」 私の返事に熊野が顔を緩めて、フッと笑う。熊野の表情が緩んだから、私もへへっと笑った。 こんなふうに冗談言い合えるのは、同期の仲だからだ。 私たちは同じ営業部に所属している。課は違って、私がWeb課、熊野が販売課。 営業部は仕切りなしのワンフロアになっているので、いつでも顔が見える範囲に熊野はいる。 しかし、熊野は私に優しくない。 「くだらないことしてないでさ、それどこかに持っていくんじゃなかった?」 胸元に引き寄せていた書類を指差されて、ハッとなった。熊野と書類を何度か交互に見て、焦る。 「 いけない! 急がなくちゃ」 「バカだな、早く行けよ」 「バカって言わないでよ。熊野のせいじゃないのよ」 「絶対俺のせいじゃないだろ?」 絶対とは言いきれないけれど……熊野がそこで告白されていなければ、私が足を止めることはなかった。 だから、熊野のせいだ。 でも、それをあーだこーだと揉めている時間はない。 「あー、もう! 行ってくる!」 「おう」
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1309人が本棚に入れています
本棚に追加