1308人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺に感謝しろよ」
「なぜ?」
「既婚者とふたりでいるところを誰かに見られて、変な噂立てられたら困るだろ? 俺がいれば、ただの食事会に見られる」
「へー。別に、噂立てられてもいいんだけどね」
好きな人とふたりだけの時間が持てるのなら、噂なんか気にしない。
熊野は「バカか」と私の頭を小突いた。呆れる熊野にそっぽ向いて、作業を再開させる。
18時過ぎ、私たちは会社近くにある居酒屋に入った。私の前には、黒瀬さん。好きな人がこんなにじっくりと見られる場所、なんて素敵な位置なんでしょう。
自然と顔が緩む私の前に、ドンッとハイボールが入ったジョッキが置かれる。
店員から受け取って置いたのは、私の隣に座る熊野だ。
もう少し静かに置けないのかしら?
チラリと見ると「なんだ?」と言われた。ここで文句言っても、良いことはなさそうだ。
黒瀬さんと熊野のジョッキには、生ビールが入っている。
乾杯して、半分ほど飲んだ熊野がまず口を開いた。
「今夜、奥さんは何してるんですか?」
奥さんのこと、話題にしなくていいのにな。知りたくない情報だ。
でも、私はイヤな顔ひとつしないで黒瀬さんの返事を待った。
最初のコメントを投稿しよう!