見守られて

9/22
前へ
/172ページ
次へ
「俺に感謝しろよ」 「なぜ?」 「既婚者とふたりでいるところを誰かに見られて、変な噂立てられたら困るだろ? 俺がいれば、ただの食事会に見られる」 「へー。別に、噂立てられてもいいんだけどね」 好きな人とふたりだけの時間が持てるのなら、噂なんか気にしない。 熊野は「バカか」と私の頭を小突いた。呆れる熊野にそっぽ向いて、作業を再開させる。 18時過ぎ、私たちは会社近くにある居酒屋に入った。私の前には、黒瀬さん。好きな人がこんなにじっくりと見られる場所、なんて素敵な位置なんでしょう。 自然と顔が緩む私の前に、ドンッとハイボールが入ったジョッキが置かれる。 店員から受け取って置いたのは、私の隣に座る熊野だ。 もう少し静かに置けないのかしら? チラリと見ると「なんだ?」と言われた。ここで文句言っても、良いことはなさそうだ。 黒瀬さんと熊野のジョッキには、生ビールが入っている。 乾杯して、半分ほど飲んだ熊野がまず口を開いた。 「今夜、奥さんは何してるんですか?」 奥さんのこと、話題にしなくていいのにな。知りたくない情報だ。 でも、私はイヤな顔ひとつしないで黒瀬さんの返事を待った。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1308人が本棚に入れています
本棚に追加