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実の母の香りを探して
その夜、奇妙丸はなかなか寝付けない様子だった。
床に入っても、何度も寝返りを打ち、時に夜具を顔に押し付けていた。そういしていると、珍しく信長が奇妙丸の様子を見に来た。既に寝入っていると思っていたのか、足音を忍ばせ、奇妙丸の寝所の襖を開けた。
「お、お屋形様」
部屋の隅で奇妙丸の様子を見守っていたさつきが、信長の訪問に動揺しながら平伏した。
父親の姿に気づいた奇妙丸は目をぎゅっと瞑り、寝ているふりをしている。
「奇妙は?」
「はい、いま…」
といい、さつきは奇妙丸を覗く仕草をした。
「良い、昼間のことがあり、興奮しているのだろう」
「…」
「あれに、会ったと」
「はい、わたくしの不用意で…」
「良いのだ。時期にわかる事なのだから」
信長は立ったままであった。幼い息子の寝姿をさつきの横で見つめていた。
「あの子が産まれた時に、あれから匂い袋を渡されたであろう」
「あれは…」
「ん、…?」
信長は目線だけをさつきに向けた。さつきはその視線を避けた。
「失くしてしまいました。どこかに行ってしまったのです。申し訳ございません」
「…であるか。ならば仕方がない」
唇の端に微かに笑みを浮かべ、信長は部屋を出て行った。
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