地味な理由と薔薇色の人生

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地味な理由と薔薇色の人生

 舞踏会終了後、ローズは舞踏館を出て王宮の庭園の中を歩いていた。  夜空を照らす月明かりを頼りに、迷路のように入り組んだ道を進んでゆく。  しばらくすると、開けた場所に出た。  目の前には、(さび)れた見張り塔が建っている。  昔は近衛騎士の詰め所として利用されていた建物は、今では使われなくなり、すっかり風化して廃墟同然。  幽霊が出そうな塔の扉を一定のリズムでノックすると、中から「名と合言葉を」という声がした。 「ローズ・ハルモニアです。合言葉は『我が青薔薇の君に、心からの忠誠を』」    告げた直後、数秒ののち、扉がゆっくりと開かれる。  ローズは中に入ると、足下をランプで照らし、高い塔のらせん階段を登ってゆく。  最上部に到達し、重たい(かし)の扉をノックすると、室内から「入っていいよ」という涼やかな返事があった。  「失礼致します」と言って扉を開けると――中には、かのお方がいらっしゃった。  ローズの主君。この国の第三王子ルーク殿下だ。    サラサラと零れる銀糸の髪に、涼しげな整った顔立ち。    長いまつげで覆われた瞳は、『奇跡』や『神の祝福』という花言葉を持つ青薔薇のような神秘的な色合い。  ルーク殿下は端正な顔ににっこりとほほ笑みを浮かべると、「こんばんは、ローズ。定期報告、お疲れさま」といたわりの言葉を掛けてくださる。
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