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昇ったのか堕ちたのか、それすらも分からない享楽の果て―――。
ぐったりとベッドに横たわるあたしの首の下には、太くて逞しい腕が差し込まれていた。
彼が普段からつけている香水は、甘すぎず上品な香りのホワイトムスクだけど、ラストノートが消えかけて、彼自身の匂いのほうが強くなる“今”が一番好き。
汗をかいて上気した肌から立ちのぼるその香りを、彼にバレないようこっそり鼻から吸い込んだ。
「―――で、何が欲しいんだ?」
腕枕の手であたしの頭をゆっくりと撫でながら、彼が訊いてきた。
「お返し狙いなら最初から素直にそう言えばいいんだ。何か欲しいものがあるんだろ?」
―――あなたが欲しい。
その言葉と痛む胸をこらえて、ぷぅっと頬を膨らませてみせる。
「それを聞くのはぁ、ブスイってもんですぅ」
安易に答えなんてあげない。せめてホワイトデーのお返しくらい、あたしのことを考えて悩んでほしい。
そうやってあなたが選んでくれたものなら、あたしには飴玉ひとつだって宝物になるのに。
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