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あたしだって本当は静さんに色々と聞いて欲しかった。
課長とのこれまでを洗いざらいぶちまけて、失恋の悲しみを吐き出したかった。
だけど、そうなれば静さん本人に課長とあたしがしたことがバレてしまう。
自分ことを『好き』だと言った課長が、実はあたしと“そういう関係”だったと知ったら───。
静さんはどう思う?
あたしだってそんな彼との情事を楽しんでいたことがバレてしまう。
静さんに軽蔑されて嫌われたら―――。
そんなの絶対イヤ。
話したいのに話すことが出来ない人のそばに居て、好きな人から必死に逃げ回る。
そうしてやっと迎えた定時。
こんなに一日が長いと思ったのは初めてで、ふと昨日はあんなに時間が経つのが早かったのになんて思ってしまったら、また目頭が熱くなった。
たった一日のうちで天国と地獄みたいなこの落差に、あたしはどうしても自分の浅はかさを呪わずにはいられない。
どうして職場の上司なんかとあんな関係になっちゃったんだろう。
だけどそうしてみたところで、すべては自分で蒔いた種。身から出た錆、自業自得ってやつ。
そう考えたらあまりにバカバカしくて、浮かびかけた涙はすぐに引っ込んでしまった。
今日はもう上がろう。静さんも定時上がりだと言っていたし (間違いなくデートだ) 。
こんな状態じゃ、まともな仕事どころか何かミスしてもおかしくない。
またしても0を一個多く押してしまうような大ポカをやらかしかねないと、あたしは早々にパソコンを閉じることにした。
今日の分は明日必ずやりますからぁ…!
明日は課長が公休日だから、今日みたいにビクビクしなくて済むし。
あたしは誰に向かってか分からない言い訳を心の中で並べ立て、更衣室に引き上げようとデスクから立ち上がった。
―――のだけれど。
「森、ちょっといいか」
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