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「は、離してっ……」
あたしの必死の訴えは、決して広くはないミーティングルームにすら響かず、目の前の薄水色のシャツに吸い込まれて消える。
「イヤだ」
「イっ、」
「離したらおまえまた逃げるだろう?」
そんなん当たり前ったい…!
そう叫びたいのをこらえたら、喉の奥が「うぐっ」と鳴った。
「せっかく捕まえたのに逃げられたら困る。俺の話を聞いてくれると言うまで、絶対に離さないからな」
「そっ…!そんな脅しみたいなぁっ……誰かに見られたらどないしはるんですかぁっ」
「問題ない。鍵はかけてある」
「~~~っ!」
用意周到抜かりないところだけは、“いつもの”仕事が出来る課長そのもの。
それなのに、この状況は全然らしくない。
だってここはミーティングルーム。
ってことはここ職場っ…!
しかも事務所のすぐ横っ…!!
そのうえ『The勤務時間中』なんですけどぉぉぉっ!?
二本の長い腕に抱きしめられながら、あたしは心の中で思いっきり叫んだ。
(どうしてこんなことにっ…!?)
『抱擁』というよりは『拘束』と呼ぶほうが絶対にしっくりくる彼の腕の中で、今まさに絶賛パニック中だった。
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