不毛な協定

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そんなあたしからしてみたら、彼が誰を好きなのかなんて一目瞭然。 彼女のことに関してだけ、彼は胡散臭い作りものじゃない自然な顔で笑うから。 初めてそれを目にした時、あたしはつい、その「自然な微笑み」に見惚れてしまった。 そのことに気付いて以来、職場での彼の視線を追うようになって、そして気が付いた。 (ああ、課長は静さんのことが好きなんっちゃね) 頭を撫でるのも、名字以外で呼ぶのも、静さんだけ。 それなのに、鈍感な静さんは彼の気持ちに微塵も気付いていない。どう考えたって分かりそうなもんなのに。 静さんだってまんざらじゃなさそう。生理的に無理な人に頭なんて触られたら、完全鳥肌モン。課長のことを嫌いなわけじゃないと思うのに。 でも、課長も課長ですぅ! 好きなら好きって、もっと分かるようアプローチしはればぁ、えぇんちゃいますぅ!? なんて二人を見ながら思っていたあたしは、ずいぶんとイライラが溜まっていたのだった。 あと五分で家に着く―――というところで、つい頭の中から言葉がこぼれた。
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