自業自得

14/15
前へ
/263ページ
次へ
「俺の話を聞いてくれるのなら、おまえの要望も聞いてやる」 「は?」 「逃げずに俺の話を聞いて欲しい。その機会を作ってくれるのなら、俺がおまえを黒田製菓へ連れて行ってやるよ」 まったく意味の分からないセリフに思いっきり眉をひそめたあと、その言葉に息を呑んだ。 「今日はちょうど車で来ているから、途中で手土産を買いに寄っても充分に間に合うだろう」 「ず、ずるいっ…」 提示された“交換条件”に思わずそう声を上げると、彼が沈黙した。 だって、これってまるっきり公私混同やないの。 これまでの彼は、たとえプライベートであたしとどんなやり取りをしたとしても、仕事は仕事。素知らぬフリを決め込んで、絶対に表には出さなかったのに。こんなこと初めて。 本当(ほんま)にこの人、あの(・・)結城課長ですかぁっ!? そんな疑惑を否定するみたいに、さっきからずっと、あの、控えめな甘い香りがあたしを包んでいた。 彼の腕の中にいるのだ。そう思うだけできゅうっと強く収縮する心臓に、まだ自分が全然彼のことを好きなことを思い知る。そんなの知りたくもないのに。 悔しいのか嬉しいのか悲しいのか。 自分の感情なのにそれすらよく分からない。 ごちゃ混ぜになった感情にどうしていいのか分からず、ただまぶたが熱く湿っていくのを感じた時―――。 「自分でもズルいことは分かっている」 少し掠れた声が降ってきた。 あたしは彼の腕の中で、身じろぎひとつできない。彼の顔を見るのが怖い。 「自分でもなんでこんな……公私混同極まりないことをしているのか……ハッキリ言ってよく分からない」 「そやったら、」 「だけど…!―――分かっていても、どうしてももう一度きちんと話をするチャンスが欲しいんだよ、希々花」 名前を呼ばれたことに驚いて、反射的に顔を上げる。 目が合った瞬間、息を呑んだ。
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4745人が本棚に入れています
本棚に追加