自業自得

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ゆらゆらと揺れる虹彩。 苦しげに寄せられた眉根。 彼の顔はひどくせつなげに歪められていて、まるで心の底からそれを(こいねが)っていると訴えてくるよう。 切羽詰まったその表情に、あたしは返すべき言葉を見失ってしまう。 すると頬に大きな手がスッと差し込まれて、肩がビクリと跳ねた。 「午後からのアテンドが終わったら、一緒に黒田製菓へ行こう。阿部さんへのご挨拶が無事済んだら、そのあと俺との時間を作ってほしい」 「………」 黙ったままのあたしに彼は困ったように眉を下げたけれど、引くつもりはないらしい。 頬に当てた手の親指が頬をスーっと撫でた。 「希々花、頼む……」 そう懇願する彼の瞳は、まっすぐにあたしに注がれていて、あたしはそこから逃げ出したいのに一ミリも逸らすことが出来ない。 息をするのも忘れて固まっていると、みるみる彼の顔が近付いてくる。 漆黒よりは少しだけ明るめの虹彩に、自分の顔が映っているのがハッキリと見えた。 キスされる―――。 そう思った瞬間、口から言葉が飛び出していた。 「わかったっ…!」 ぎゅっと両目をつむったままそう叫ぶと、彼の動きが止まった。 あたしはその隙に、必死に言葉を紡いだ。 「時間作る、話ちゃんときく。それでよかっちゃろ(・・・・・・)っ…!?」 「ああ、もちろん」 「じゃあ、」 もう離して。 そう言いかけた時―――。 「ありがとう、希々花」 そう聞こえてからすぐ。ふわりとおでこに感じた柔らかさと温もり。 「っ…!」 驚きに目を見張るあたしにそう言うと、彼は両腕をそっと()く。 そしてすぐそこにあるドアを開けると、あたしのほうを振り返えらずに言った。 「直帰申請はしておいてやる。森は黒田製菓さんへ訪問のアポをきちんと取っておくように」 「は……い」 パタンと閉まるドア。 あたしは彼の唇の感触が残る額を片手で押さえ、その場にへなへなと座り込んで、しばらくそのまま動けなかった。
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