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今し方よりもっと低い、地を這うような声にあたしの酔いが一気に醒めた。
こんなふうに怒りをあらわにする課長は初めてで、怯えの気持ちが体を固まらせる。
でもそれを彼に悟られるのが嫌だった。
なしてあたしが怒られんばいかんとね…!?
〈なんであたしが怒られなきゃいけないの…!?〉
好いとぅ女一人まともに口説きもせんば、黙って見とるだけのヘタレ男に負けるような希々花じゃなかとばい!
〈好きな女一人まともに口説きもしないで、黙って見てるだけのヘタレ男に負けるような希々花じゃないのよ!〉
『よけいなことって何ですか?』
自分でも驚くような低い声が出た。
『好いとぉ女に好きっち言うんが、そげんいらんことねっ…!?好きなら好きっち、さっさと言えばよかろうもんっ…!』
最後はほとんど喧嘩腰だった。
今思えば上司にそんな口を利けるなんて、あたし全然酔ってたやんか。
だけどあの時は全然そんなこと分からなくって―――。
『おまえに何が分かる』
喧嘩腰のあたしとは逆に、課長は冷たく低い声で短くそう言い放った。
『何がって、』
『ここに来たばかりのあいつが、どんなに苦しんでいたか……』
『苦しんで――て、静さんが?』
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