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『ああ。付き合っていた相手に裏切られてボロボロだったあいつは、仕事に打ち込むことで、それ以外の一切を遮断していた。そうじゃないと、あいつは立ち直れなかったんだろう』
『そんなことが……で、でもっ、じゃあ課長が癒しはれば良かったんや……』
『恋愛に拒絶反応を起こしていたあいつに、もし俺が少しでも気持ちを匂わすようなことがあったら、きっとあの時のあいつは俺のこともシャットダウンしただろう。関西に他に頼れる人が居ないあいつが、俺にすら頼れなくなったら……ふらっと消えてしまいそうだった』
『そ、そんな……』
あんなに毎日楽しそうに仕事ばかりしている静さんに、そんな頃があったなんて―――。
『だから俺は、あいつがまた恋愛をしていいと思えるようになるまで、何も言う気はない』
『………』
街灯の切れ間で足を止めているあたしたちの間に、沈黙が横たわる。
勤務時間外の上司と新入社員の間に、流れるはずもない重苦しい空気。それに耐えかねたのか、彼のほうが先に口を開いた。
『そういうわけだから、森、おまえはよけいなことはなにも、』
『じゃあ、のんが教えますぅ!』
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