不毛な協定

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『は?』 『希々花がぁ静さんの様子を、課長に報告したげますぅ!』 前にのめる勢いでそう言ったあたしに、課長は目を(しばた)かせた。滅多に見れないその表情に、あたしはずいぶん気をよくした。 『いったい何を言って、』 『だって、いつ静さんが恋愛モードにならはるかぁ分からんでしょぉ?こういうんは、女同士のほうがぁ話しやすいもんやないですかぁ?』 『………隠密か?』 『なんや古臭いですよぉ課長ぉ!せめて「スパイ」言うてくださぁい』 バチっと大きくウィンクを飛ばしてみると、くっきりとしたアーモンドアイがいぶかしげに細められる。 『森おまえ……俺の弱みを握って何がしたい?』 うっわぁぁっ、思考が既に腹黒のそれですぅっ! 『べつにぃ、課長を脅して仕事を減らしてもらおうやなんてぇ、全然思うてませんってぇ』 『じゃあ一体そんなことをして、おまえに何の得があるっていうんだ』 損とか得とかじゃなくて、ただ見ていてイライラするし、単なる暇つぶしのつもりだったんだけど。 そう言ったら面白くないし、なんとなくそれじゃあ納得してくれないかも。 腹黒い人の考えは、腹黒いからよく分かる。 ああ、きっとこれ、“同族嫌悪”ってやつだ。 本性を隠した腹黒いところがそっくりすぎて、見ているとイライラするんだろうな。おまけにヘタレやし。 (どげんすっかなぁ……) 頭の中でそう呟いた時、パッと閃いた。 そうだ!
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